日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

たこの木通信の原稿

(33) 兄の呪い 前編(1/3)

溺れて死ぬ。あれほど苦しい死に方はない。そう思っていた。 10年ほど前に沖縄の海で死にかけた。砂浜だけど急に深くなる。そして波が高かった。遠くの海を台風が通過していた。マヒのあるSさんを介助しながら遊んでいて、波で深みに運ばれた。手を離すと沈…

(32) 多摩スケッチ「飯能アルプス」

はんのう。心地いい響き。東京に移住して、最初の「最寄り駅」が飯能だった。 「飯能は東京じゃない」そうだけど、青梅市の山あいに住んでいて、100m先の成木川を渡れば埼玉県飯能市だ。調整区域で家は増えない。かわりに介護施設や精神科病院が建つ。静かな…

フィットする支援をめざす会 「Yさんに会えた」〜 八尾ゆうとおん交流「合宿」の報告

2日目の朝。B型と生活介護「ゆうとおんはーと」2階の作業場でYさんを待つ。 多摩の仕事ではあまり出会わない、清潔で広くて明るい空間だ。人気のない館内に大きなチャイムが響く。来たようだ。1階の玄関を通ると全体に音で知らせる。気のせいか畑さんが渋い…

(30) 多摩スケッチ「日野」

トイレで移乗をしてドアの前で待っている。試したいことがある。 床に座り両腕をついて腹筋で体を持ち上げる。数セット合わせて約1分。腹筋や体幹に効いてる。合図があれば、すぐに立ち上がれる。また一つ待機中の「内職」科目を身につけた。 スクワットや腕…

(30) 多摩スケッチ番外編・河内スケッチ「八尾」

この辺りのことは触れづらい。十代のときに四国から大阪に出てきた。初めての都会だった。 地元では、山と海、平地は田んぼとビニールハウス。そのスキマに街があった。都会ではスキマに緑が残り川が流れる。突然現れた広大な街を仕分ける。よく使う阪急沿線…

(28) 多摩スケッチ「続・吉祥寺」

アマゾン・プライムばかり観ている。昔は、レンタル屋の名作棚を探したり、DVD宅配でマニアックな映画を借りていた。今はアマゾンのお勧めにしたがって漫然と観る。背伸びしてマニアックな作品を観ていれば、歳を重ねれば楽しめるようになると思ったけど、そ…

(27) 多摩スケッチ「吉祥寺」

ハトが巣を作ってしまった。 どうも無気力だ。引っ越して4ヶ月経つ。出窓の台の電子レンジはコンセントが抜けたまま、ものを温めず1日陽に当たっている。片付ける気力がない。「アラフォーの危機」と5月病がいっしょに来た。先週は雨に濡れて体が冷えきった…

(26) 多摩スケッチ「大泉氷川神社」

まずブレーカーを探す。上を向いて半開きの口のまま、天井近くの壁を見てまわる。引っ越して最初にしたこと。 初めての1人暮らしが不安だ、という人と話した。食事の準備・洗濯・掃除を1人でやらなくちゃ。やってみると逆の結果になることが多い。1人暮らし…

(25) PFウォッチャー日記(1) ピープル・ファースト・ウォッチャーとして

ピープル・ファースト(PF)奈良大会の実行委員会が始まるようです。2ヶ月に1度くらいのペースで委員たちが全国から支援者を伴って集まるというのは、なかなかのパワーが必要です。毎年の大会も盛況ですし、着実に活動を続けているように見えます。 もう一つ。…

(24) 多摩スケッチ「武蔵関」

「あさんはいつも薄着だね」冬になると何度か言われる。年々言われることが増えた気もする。若いなら「元気だね」だけど、くたびれた中年が寒々しいのかも知れない。外が寒い時期ほど電車や店での温度差があって脱いだりするのが面倒なんです。 地方で常に車…

(23) 多摩スケッチ「清瀬」

あのOさんの介助である。車イスを押している。 エレベーターが近づくと少し緊張してくる。突然、床にタンを吐いたりする。狭いハコに乗りこむ前の「身じたく」かと思う。電話がつながる前にセキばらいするように。外ならまだいい。というか耐える。改札前の…

(22) 多摩スケッチ「高尾山」

登りきるまでは歩かない。 そう決めた。即席のルールを頭のなかで繰り返す。高尾山の「1号路」を走って登る。思ったとおり面白くない山だ。石畳とコンクリートの道は広い。軽トラなら通れそうだ。トレイルランの練習に来た。タイツをはいて、最近やっと認知…

(20) 無謀にも「人権」を考える(10)傍観者であること〜たこの木30年に寄せて

たこの木30周年の記念号で、それと知らず全く関係ない「仙人」についてけっこうな熱量で書いて、通信のなかで浮いていたことが今も引っかかっている。 10年以上この仕事をしている。介助技術もたいして無く、組織での仕事も苦手で、つくづく自分はしょぼい。…

(19)無謀にも「人権」を考える(9) もう1枚の「日の丸」

もう1枚の「日の丸」4月に知花さんの講演を聴きに行った。10年前に沖縄で会ってから、ちょっとした「追っかけ」になった。魅力的な人だ。経営する民宿で三線を弾くのを聴いて、帰ってすぐに三線教室を探した。 好きだったけど予定が合わないのと飽きっぽいの…

(18) 無謀にも「人権」を考える(8)「仙人」はなぜ山に住むか

人はなんでこう弱くて壊れやすいのか。適応力が強く地球上でもっとも繁栄している生物のはずなのに1人ひとりは弱い。生まれつきの障がいもある。そうでなくても適切に育てられなければ苦しさはずっと続く。 実習先の精神科病棟で患者さんに話を聞いた。元気…

(17) 無謀にも「人権」を考える(7)ゆうとおんの皆さんと

「ゆうとおん」の皆さん、1泊で2回の会議と2回の打ち上げの過密スケジュールでした。本当にお疲れさまでした。感じたことを少し書きます。 被害者がおられますし知識も乏しく、的外れなことを書かかないか気がかりです。畑さんは「面会でYさんから反省の言葉…

(16)無謀にも「人権」を考える(6)5/27相模原での集会〜献花台の前はリングとなった

「僕らの家なんです。地域なんです。見に来てください。『収容施設だ』なんて園を見ていない人、利用者の顔も見たことのない人が言っている」 孤軍奮闘するのは、津久井やまゆり園の元家族会会長の尾野さん。表立って発言を続ける、被害者家族で唯一といえる…

(15) 無謀にも「人権」を考える(5)この場を借りてお礼を

食品スーパーにて。1人目は店員さん。見覚えのある「肉シューマイ」の紙パックを持っていた。「目の前に落っこちてきてね。びっくりしたよ!」笑っていた。 さっき天井に向かって放り投げて、陳列棚を越えていったやつだ。引きつった笑顔を作って謝り、「早く…

(14) 無謀にも「人権」を考える(4)まだ戦争は始まっていないようなので・・

「認知的不協和(矛盾に苦しんだりゴマかしたりすること)は、人間の欠陥ではなく、文化を打ち立てた必須の長所だ」 −−話題の本『サピエンス全史』を読んでいる。40歳も迫るのに迷走ぎみな今こそ読んでみたいと強く思い、買ってすぐ出品し、売れるまでに読むと…

(13) 無謀にも「人権」を考える(3)反省:「弱さ」を実感した2016年度

3/6福祉新聞「37歳の職員の後頭部を床面に打ち付けて...略...39歳の職員には顔面に暴行を加え、眼底骨折など全治2カ月のけがを負わせた」津久井やまゆり園のU容疑者。 あれ?『職員は絶体に傷つけず』(大島議長への手紙)じゃなかったのかい。ボコボコにしてる…

(12) 無謀にも「人権」を考える(2)沖縄から「右と左」をくっつける試み

「喜多見と狛江の小さな映画祭」主催の沖縄映画祭を観に行った。毎年、反戦・平和をテーマに、手作り感はありつつ、10日間に渡って朝からスケジュールを詰めて「小さな」とは言えないイベントになっている。去年も行って、個人宅のようなスペースに集まる人…

(11) シセツ職員もつらいよ(11) 無謀にも「人権」を考える・コンビニレジ編

トランプ当選が決まった日は「民主主義はすごい。革命で血が流れるでもなく平和的に揺り戻しが起きる」と少し感動した。そうならないように、権力者はより慎重になる。でも学校で「メキシコに帰れ」など差別的ないじめが増えたと聞いて、やっぱりダメだ(感動…

シセツ職員もつらいよ(10) 年に一度のチャレンジ

久しぶりに施設に暮らす友人に会った時のこと。2人とも自立生活への希望があり、東京に来て介助者を始めて1年経って、何かいい助言や提案ができればいいと思っていた。以前と変わらず2人とも頑張っていて、助言なんてできない。必要なのは、末永さんがよく言…

(9) シセツ職員もつらいよ(9)「最低でも職員」

「憧れの」ヘルパー暮らしが壁にぶつかっております。 介助中も影響が出て「居眠り厳禁」な人の前で意識が飛んで「NG予告」を受けたり、自然にやってた着替え介助ができず怒られた。初心に返り、キツめのパーカーを着て夜中ひとり着脱の練習をした。全国の…

(8) シセツ職員もつらいよ(8)「目的は何ですか?」

夜行バスを降りて10分も歩くと高松港だ。 受付で聞かれた。「島に渡る目的は何ですか?」 私「目的が必要なんですか?」 受付「面会だとか見学だとか、目的がないと乗れません」 私「芸術祭の企画を観に」 受付「芸術祭はだめ。芸術祭の方で聞いて」 実家に…

(7) シセツ職員もつらいよ(7)どれいのしあわせ

NHKの『バリバラ』。24時間テレビにぶつけた生放送が話題になった。面白いんだけど、以前は気になりつつも少し避けて観なかった。「家に帰っても仕事のことを考えたくないから」だと考えていたけど、今は普通に観られる。おそらく、施設での自分の仕事が…

(6) シセツ職員もつらいよ(6)「軍手しなきゃ」

事件のあった相模原の施設に花を供えてきた。 第一報を受けた時「容疑者のことをあまり報道しないでほしい」と思った。それは、単純な嫌悪感や「当事者の不安をあおる」からだと漠然と考えた。多くの反応の中で、「ヘイト・クライムとして断固NOを」という意…

(5) シセツ職員もつらいよ(5)お金の話

鶴田さんが紹介された本『介助者は、どう生きていくのか』は転職の時にとても参考になった。 初めて「介助者」を見たのは障がい者集会の懇親会だった。車イスのななめ後ろで控えて、指示があればさっと動く。私は、ボランティアで食事介助や「通訳」はしても…

(4) シセツ職員もつらいよ(4)開かれた?施設

知的障害のある人と個人契約でヘルパーをしていた知人が、ちょっとしたトラブルから成年後見人の判断でクビになった。本人とは家族ぐるみの付き合いがあったのに、話し合いもなく処分だけ電話で伝えられた。 寂しい話ではあるけど、家族でない、契約と財産管…

(3) シセツ職員もつらいよ(3)いやいやSさん、これからですよ!(と、言いたいけど)

「荒木さんSはよこはま大会がさいこにしようとおもっています」 Sさんは、小さい頃から病院と施設で暮らしてきた。10年前に知り合って旅行や外出のボランティアをしている。メールは、ピープルファースト大会の介助依頼だった。「最後にする」の理由は、暇…