日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

(24) 多摩スケッチ「武蔵関」

「あさんはいつも薄着だね」冬になると何度か言われる。年々言われることが増えた気もする。若いなら「元気だね」だけど、くたびれた中年が寒々しいのかも知れない。外が寒い時期ほど電車や店での温度差があって脱いだりするのが面倒なんです。

地方で常に車に乗っていたから、あれはエアコン・ラジオ付きのワンルームみたいなもので「ついでに走ってもくれる」便利なものです。車までの数十メートルを我慢すればよかった。謙遜まじりの理由を並べるのは、要はうれしいから。「薄着で元気」は元男児として栄誉なこと。「裏の意味は、貧乏くさいってこと」大人なんだから浮つくな。本能に近いものは抑えがたい。背が高い、足が速い栄誉もあるけど、素質が必要だ。

1月に引っ越して通勤手段も変わった。環境が変わって気づくこともある。結論として、僕が寒さに強く見えたのは「バスに乗ってなかったから」だった。人を寒さで痛めつける「冬将軍」は、マクロではシベリア寒気団だけど、体感では「バス」というかバス停。

武蔵関駅の、北に向かうバス停は南側にある。そこでまず間違う。改札から250m歩く。地元民2人くらいに聞かないとたどり着けない。正月の3日の朝。バスが来ない。多摩の北の方は台地で、風が強いと思う。寝れない夜勤明けで、末端に血が巡ってない。自分が乗るバスの「ような」大型車両が見えた。関係ないトラックだった。バス停でよく見かける小さな子どもたちや年配の方は、こんな過酷な環境に耐えていたのか。

排気ガスのカスミに目をこらし、通学バスに裏切られ、「回送」に裏切られ、別路線に、「境04」か「境03」、微妙な番号違いに期待をかけては気まずく目線をそらしてやり過ごす。来てくれても、満員のドアが開いて閉まるのを呆然と眺めるだけのこともある。

歩いていれば温かい。雪や冬の雨の中を自転車で走ると寒そうだけど、実は体の内部から熱が出る。体の熱を外気や水分が冷やしてくれる感覚は心地良いことも多い。動くのをやめても30分は持続する。

「こうして広背筋が動けばね、暖かくなるよ」介助中に、頸損の2人の会話を立ち聞きした。ほとんどの筋肉が動かせないので体温が上がりにくい。冬は暖房をつけても寒い。動かせる腕を振って大きな筋肉を使う動きを研究していた。動けないバス停で待つのと、一ミリくらい似ていないか。

文句はあるけど、バスの一番前の「高い席」からの景色はテンションが上がる。期待もこめて未来のバスを考える。一番の苦難は前後左右の強烈な「G」。鉄道のレールがカーブで傾くように座席や床が傾く。自動運転で周りの状況に反応してGを減らす‥それはまた今度。