日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

(23) 多摩スケッチ「清瀬」

あのOさんの介助である。車イスを押している。

エレベーターが近づくと少し緊張してくる。突然、床にタンを吐いたりする。狭いハコに乗りこむ前の「身じたく」かと思う。電話がつながる前にセキばらいするように。外ならまだいい。というか耐える。改札前のツルツルの床にタン吐くのやめてほしい。車イスかベビーカー、最低杖でもつかないとエレベーターを使われたくないらしい。

エレベーターが開いて「元気そうな人」が降りると文句を言う。毎回もれなく言うので、ワイヤーが巻かれるのを見ながら、若い人ならベビーカーか、せめてスーツケースでも運んで来てよ、と思ってしまう。うるさいから。

清瀬の駅のエレベーターは混んでいることが多い。いつもタンを吐くわけじゃないので、長年のタバコでタンまじりのしゃがれ声で嘆く。「歩ける人が乗っちゃうから、俺たち困っちゃうんだよ」ベビーカーやスーツケースは少ない。車イスが並ぶわけでもない。歩くけど、杖も要らないけど駅の階段はきつい。駅の外のエスカレーターがないから。元気で、頑張って歩く年寄りが多い町。張り切ると車イスを降りて、歩くどころか走ってるOさん。困ってても見た目でわかりにくいのはお互い様だと思うんだけどね。

季節は夏。Oさんは毎週のように夏まつりに出かける。「清瀬のはいいんだよ。一度見といたほうがいいよ」そんなにいいのだろうか。たまにしか来ない介助者を気づかって「今日の介助はアタリだよ。もっと介助入ってくれよ」と言ってくれてるのかもしれない。昭和のまま時が止まって、人間だけ年齢を重ねている。商店街は立派だ。すれ違う人たちの年齢は高め。駅前は4階でも高層ビルに入る。まつりの盛り上がりが想像できない。そして、「沿線では最大」の阿波踊り、という微妙なコピー。

実際はすごかった。本場と高円寺に次ぐ規模じゃないかと思う。それで、そこまで混まないからヨソより間近で見られる。アタリだ。東京に移住して、ちょっと落ち着いて都内に出てみたのが夏ごろだった。富山の盆踊り「風の盆」のポスターを見た。富山県の宣伝、にしては地味だと思って読んでみる。そこから一駅の距離で、日付は今日で、なんなら今から一時間後に始まる、と書いてある。本場のに6年通った自称「通」として色々比べて楽しんだ。

その帰り道に高円寺の阿波踊りの案内を見つけた。次の週末に高円寺に出かけた。何でも東京にある。モノは作れても「まつり」はコピーだったかもしれない。でも、それを支える人が都会には密集しているから少しづつ本物になっていく。それに対して、地方の本場からは人が減っていく。

「地方はこわい」各種ランキング最下位県の出身だ。その分際でふと思う。お前が言うな。その通り。ここに揃ってる。行く理由がない。行かない理由を考える人は日本一多いし、おそらく日本一理屈がうまい。東京もこわいよ。