日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

こうさい療育セミナー

(職場向けの報告の下書きです。・・感想文みたいだな)

2月18日に、神奈川の弘済学園で「こうさい療育セミナー」を受講してきました。

鉄道弘済会は、もともと旧国鉄の職員向けの福祉事業をやっていました。現在は、旧国鉄の枠を越えて、それまでの長い蓄積を活かした障害者・高齢者の支援をしています。「弘済学園」は、60年前に千葉に作られ、後に今の場所に移りました。全国から、他の施設に受け入れられなかった重度の障害児が集まりました。

・支援計画を「ちゃんと」実行するために・・

24時間の生活施設で一貫した療育を行う、ということは並大抵ではありません。職員の意識はもちろん「何時に何を」「こういう場合はどんな声かけ」という現場での細かい対応を、どうやって統一しているのか。支援者は毎日入れ替わり、非常勤職員も加わります。

さあ、いつ質問しようか。しゃべりは苦手だし、どう言おうか・・。しかし、午前中の見学が始まると、自分の質問に意味がないことがすぐに分かりました。
弘済学園は、開設当初から「完全担任制」です。10名前後の利用者に3人の担任職員が付きます。その3人が日中活動と夜間を除いた、365日の生活の時間をすべて見ます。高齢施設の「ユニット式」に近いと思いました。現場にいるのは基本的に1人だけ、という責任の重さはありますが、利用者ひとりに「継続した濃密な関わり」が持てます。「一貫した支援」は、組織図の中に組み込まれていました。

「完全担任制」の比較対象として「複数の職員が大勢を見る」やり方があります。<荒木の職場>や、一般的な福祉施設のやり方です。係の方の説明では、「体制が組みやすく、多様な人が関わるメリットはある」としながらも「職員が役割や責任感を持ちにくく、人が変わることで混乱する利用者もいる」ということでした。

今回のセミナーは「実践的スーパーバイズの方法」という変わったテーマでした。スーパーバイズとは、チームのリーダーが客観的に相談に乗ったり、助言することです。

各ユニットには係長がいて、いくつかのユニットをまとめる課長がいて、その上に現場全体を見る支援部長がいます。質疑応答では「課長は何をするの?職域は?」という質問が殺到していました。そんな分厚い組織を作る余裕は、ふつうの法人には無いのでしょう。

ただし、夜間の体制は犠牲になっています。成人施設の「悠トピア」では、60人定員に対して宿直職員は男女2人だけです。男性は、男性ユニット5つ、40人を1人で見ます。しかも「宿直」なので2時間半しか業務時間として扱われず、わずかな手当が付くだけです(ただし管理職も入るので回数は月2回ほど)。

午前の見学では「ADLコース」を選びました。弘済学園が誇る、洗面・衣類の着脱整頓・トイレなどの生活動作指導について、実際の洗面の場面やビデオを使った説明を受けました。

ビデオでは、高校生の男の子が着替えの指導を受けていました。担任職員は「この方は在園期間が浅く、自分流のやり方が身についてしまっているので、直していくのが課題です」とコメントしました。その「浅い」在園期間は「6年間」です。この時間感覚が、弘済学園の療育を理解するヒントだと感じました。

配布資料には療育手法の概要が入っています。「目標の取り方とゴールの描き」という表には、障害程度別に「ゴールまでの期間の目安」が書かれています。5〜6年は長いですよね。

内容 最重度 重度 中度 軽度
テーマ 全面介助からの脱却 よい習慣化 身辺処理への意識をつける 自立への意識付け
目標 部分動作の獲得 基本動作の獲得 細かな動作の確実さ 場・時・季節に合わせる
指導法 一緒に手をとって 一緒について進める 自己確認 動作への意識付け 意識の養成 カウンセリング
留意点 反応を待つ。継続する 個別指導 動作分析 しっかり見届ける どう意識させるかが焦点
補助設定 触覚運動感覚を手がかりに 視覚的手がかり(マーク、カード) 点検簿などの活用 予告なしの点検 自己評価
大まかな動作 5-6年 1-2年 - -
細かな動作 - 5-6年 2-3年 -
自立への意識 - - 4-5年 3-4年

<荒木の職場>で5〜6年働く人はあまりいません。この表のような長期的な視点に経てば、「経験の浅い」職員がほとんどだど思います。<荒木の職場>での働きづらさは、職員の頑張りが、目先の課題に振り回されることに費やされてしまうことかも知れません。

弘済学園では、療育の明確な目標を立てて、それを実現するための「組織」を作り上げています。「完全担任制」で集中した効果的な療育ができます。ただし、それは短期的なものです。

スーパーバイズができる分厚い組織は、現場の職員に負担を強います。ギリギリの体制で、夜間宿直は怖いくらいです。3人の担任は、人間関係が一度崩れれば辛い制度だとも思います。

分科会では「特定の職員のいる場面で他害する」ケースについて報告がありました。発表者で、スーパーバイザーの課長が強調したのは「個々の職員の対応、能力を問題にしないこと。チーム全体の課題ととらえる」ことでした。これも、現場だけではなかなか出来ないことです。このように、厚い支援をしながらも負担感の強い3人の担任を、スーパーバイザーが支えます。

「完全担任制」を、車の両輪のように「厚いスーパーバイズ体制」が支える。これが弘済学園の優れている所だと思います。そして、この組織は支援の質を上げるだけではなく、「人を育てる」ためのものでもあります。「厚い」スーパーバイズ体制は「スーパーバイザーを育てる」目的もあるそうです。

分科会では、課長が発表を任されており、自分の仕事を振り返る機会として使われているようです。完全担任制は、新人職員が短期間で成果を実感できる「新人育成」の仕組みとしても優れていると思います。

弘済学園のイメージは「優秀で熱意のある職員が、自分の生活は二の次で、利用者に寄り添っている」というものでした。研修を通して変化したのは「集中して寄り添うところと、合理性効率性を追求しているポイントを使い分けている」ことです。

「人を育てる」という点では、職員の「熱意や素質」に頼っていないと思います。一人で頑張っても長期的な視点に立てなければ空回りしてしまうし、人間関係は必ず悪くなります。一部の人がスーパーバイザーとしての力をつけるのを待っていては、先の表にあったような仕事には間に合いません。そのために何かを犠牲にしてもスーパーバイザーを育成します。

ADLでの衣類の着脱指導では、合理化していた点は「服の前後ろと裏表を正しく着る」ところです。服は、背中の一番下のところに糸を縫いつけるなどの印を付けています。それを見ながら服を手に取ると自動的に正しく着ることができます。「裏表を直す」動作は「指導していません」でした。裏表にならないように脱ぐことを指導します。首のところを脱いだ所で、必ずソデを手首から抜きます。

長い歴史と実績があり、同じようにすることは難しいと思います。しかし、研修を通じて感じたのは、「個人の熱意」に頼らず、職員・利用者にとって困難なポイントは無理せずアイデアで乗り切る合理的な姿勢です。夜間体制のように、長期的な目的のために、集中するところと犠牲にするところを分けています。<荒木の職場>でも、スタッフは働きやすく、かつ利用者の暮らしを充実できる仕組みは作れるはずです。