I love TOYA タマちゃん 編
これは「有くん火口」と呼ばれてるらしい。
10年前は非常事態のまっただ中だから近づくことは許されなかった。今でも火口の下では巨大なダムを作って、忌まわしい火山と戦おうとしている。被災地区の見学コースは、一歩外れると「危険なので立ち入り禁止」のサインに囲まれている。今だって、簡単に近づけるはずが、ない。
有くん火口にたどり着いたとき、下の工事現場からユンボのエンジン音が聞こえてきた。さっきフェンスを乗りこえてきた。日曜日は休みだと思ったのに。こんなきれいな景色が見れたから、少し怒られてもいいかな。悪あがきして、火口の尾根を歩くと発見されやすいので、湖側の急斜面をはうように進む。
簡単に近づけるはずはないから、急斜面のヤブをかきわけて登った。汗と土でドロドロになって火口を抜けると看板が立っていた。遊歩道のチェックポイント「有くん火口」の説明が書いてある。10年の間に整備された道が出来ていた。子どもも来れる。
説明を読むと、当時登ってきた火口は町に近い「珠ちゃん火口」だったみたいだ。大冒険をした気になっていたのに、すぐ近くじゃないか。
あの日、街灯も何もかも壊された暗い廃墟を、月が照らしていた。泥流に2Fまで埋まった町営住宅が、自分の実家によく似ていた。最初は流れてきた橋が2Fに引っかかっていたらしい。
遊歩道をぼんやりと歩いている。怒られずに済んだのと疲れたのと。そして、なんて町の人はたくましいんだ。地図から町も道も消されて、観光客も誰も来なくなったのに、元凶の新火口を観光化して人を呼ぼうとしている。「有珠」山からとって「ユウくん&タマちゃん」って、命がけのセンスだと思う。観光で生きてきた町の心意気ですね。
しかし噴火後、湧出量が飛躍的に増え湯質もほのかに茶色帯びた湯に変わり、噴火のダメージが及ぶ一方で、自然の恵みをもたらした。(略)現在では、年間観光客の入り込み数が400万人以上にものぼる道内屈指の温泉郷に成長した。
それってなんなんだ。笑うしかないよね。遊覧船から見た、たっぷり30分の豪華すぎる花火を、シーズンは「毎日」打ち上げてるらしい。毎日お祭り騒ぎ。パワーありすぎ。帰りに伊達の雑貨屋で「I Love TOYA」というステッカーを買った。
厳しい災害の記録は北海道新聞の記事にある。ここへの旅は人を勇気づける力があると思う。
有珠山噴火
洞爺湖はナショナル・ジオパーク (geopark)に日本で最初に登録された。世界遺産と違って、地質学上の特徴があり、それを学び楽しめる「大地の公園」というものらしい。
原ちゃんの続き。
楽しい時間はあったものの、2人の方向性の違いが明白になる。室蘭から苫小牧までの直線の国道は、数百メートル間が開いたままだった。口も利かず、どこにも寄らずに走ってきて、苫小牧では船が夜出るまで丸一日時間が空いた。19時に乗り場前で落ちあうことにして別れた。
数年後、原ちゃんが「結婚式で旅の話をしてほしい」と頼んできた。思わず断ってしまった。友人の結婚式の依頼を断るなんてありえない、と大学の先生に怒られた。原ちゃんにとって、すごい冒険で良い思い出になっていたみたいだ。
どうせ僕のことをさんざん悪く言ったんだろう。披露宴で会った奥さんは、初対面なのに目を合わせてくれなかった。