担当じゃない(直島5)
5時に1人で散歩に出た。桟橋まで歩くと「夫婦船」の小さな船が漁をしていた。
6時にパーク・ホテルに行ってみる。だめだろうと思って、いちおうフロントに来たばかりのスタッフに入っていいか聞くと、大丈夫らしい。勝手にどうぞ、という感じでありがたい。
早朝に見た、誰もいない地下の展示室はあまり経験のない感じだった。限界まで落とした照明で、展示の写真はよく見えない。それが寝起きの心と体によく合う。それにエコだ。
開館時間を長くするには、屋外にするか電気代のかからない展示にすればいい。ホテルスタッフが美術館だと思ってなさそうなのも良い。よいホテルならこれくらいあるだろう、という姿勢かもしれない。
美しい海辺にコンクリむき出しの壁という、ここの建築のバランスは、ザルと松ぼっくりに似ている。ここをうまく隠すとかえって嘘っぽくなるのかも。
この付近に「ミュージアム・ショップ」がある。朝は開いてない。昨日着いたばかりに入っている。黄色いカボチャの横でしばらく海を見たあと、海岸沿いに歩き、芝生のカラフルな動物を見てショップに入った。美術館でのいつもの流れ。
そこまでの良い時間に比べて、あまりにつまらない空間との落差に参って、すぐ出てきた。べつに悪いとこもない普通のショップなんで、悪く言っちゃだめだけど。浮かれてた魔法が中のエアコンに当たると一瞬で解けそうだった。あのショップのドアの開閉はアートになると思う。
ちょうどよく晴れ、ちょうどよく降った。庭が良かったのは雨のせいだと思う。
散歩から戻ろうとすると強く降りはじめた。朝食に行くため美術館を通ると、荒木家お気にいりの彫刻のくぼみには雨水がたまっていた。「今日は乗っかれないね」雨が止んでも、しばらくは水がたまってるだろう。
この旅の「最重要人物」が、朝飯を食べている時に活動を始めていた。その人は、雨が上がるころに、大きなタオルで屋外の椅子を拭く。清掃の人ではない。支配人クラスの正装をしてる。顔立ちも鷹揚な動きも支配人クラスだけど、ゆっくりていねいに椅子の水滴を拭きとっている。
見納めだから、安田さんの「天秘」を見るだけでも見て帰ろう。・・雨が上がって30分もたたないのに、仕事は終わっていた。彫刻はきれいに水分を取られて座ったり寝たりできる。この朝は順番待ちで、僕らが寝て遊んだ後、室内へ戻ると女性の団体が入れ替わり、彫刻に登っていった。
フロントやレストランなど、直接サービスするスタッフは悪くないけど大したことない。そう言いながらも、ぼくらが満足してるのは、全てあの人のプラン通りな気がしてきた。
大勢スタッフがいて、直接的なサービスがみんな最高水準になるのは難しいから、あの仕事人的な人が裏で始末をつけている。「平時」は、屋上で雲の形を見て天気を予想したり、海の潮目を読んだりしていそうだ。大事なところは押さえて、あとは余計なことしない。地中美術館は、この人の担当じゃないのかな。