ちょっとあなた(寿1)
山谷に行ったときは、宿探しに苦労しなかった。
山谷の宿(サンヤノドヤ)・前編 - http://d.hatena.ne.jp/Araki/
20時を過ぎていた。雨も降っていた。それは山谷でもそうだった。雪が降っていた。料金表を見比べて、安くて怖くなく、優しすぎず刺激もほどほどの宿泊所を選んだ。受付のおじさんは優しく、新しい客層として若い旅行者を受け入れようとしていた。TVは無かったけど風呂は付いていた。
ぐるぐる町を歩きまわって、やっと「空室あります。料金・1泊1800円」という紙を見つける。それまで目に入っていた通り沿いの建物のほとんどが「宿泊所」だったことに気づいた。どこも料金表を出していないし受付も見えない。よくあるのは「面会時間は9:00〜21:00です」という張り紙。
一番安い宿の受付の窓が閉まっていて誰も出てこなかった。焦ってくる。受付が閉まってても、外から見て電気が付いていたら中のドアを叩いて人を呼ぶ。2軒は満室だった。太った兄ちゃんが、ていねいに一般向けのホテルを紹介してくれるけど、それは相手にされてないみたいで少し残念だ。
タイル張りの小ぎれいな所でノックする・・その前に、ドアが開いて若い女が出てきた。「ちょっとあなた、どこの部屋に行くつもりですか?」ドアのすき間から顔だけ見せて、表情のない顔で。時間外に知り合いの部屋を訪ねたと思ったんだろう。
「遅い時間にすみません。泊まりたいんですけど・・」無表情女「いつまで?」「1泊だけなんですけど・・」無表情「1週間以上。」「1泊だと無理でしょうか?」無「・・・」
もうだめか、と思ったけど、ダメ元で向かいの「三都荘」に行く。受付が閉まり、暗くなっている。玄関わきで、おばあさんが掃き掃除していた。雨のおかげだ。面倒な部類の客だけど、捨てておけないんだろう。最初は困っていたけど、けっきょく泊めてくれた。
「301号室だけど・・もしかしたら誰かいるかも知れないから・・お金払わずに勝手に泊まっちゃう人がいるから・・もし、使えなかったら303号室にして。両方カギを渡すからね。」
?何を言っているのか、分かるのに少しかかった。要するに、おばあさんは優しいんだ。捨てておけない。放っておけないから放っておいてる。