壁はうすい(寿2)
そうだろうと思っていたけど、自分の寮とそう変わらない。ドアを開けたら玄関くらいのスペースがあって、それで終わり。2畳と少し。でもトイレは寮よりきれいだ。夜は静かだし。
3段BOXの上に小さなTVがある。確かめたいことがあった。
横浜市寿地区。釜ヶ崎、山谷と並ぶ「ドヤ街」のひとつ。戦後の横浜港の発展とともに集まってきた日雇い労働者が住んだ。でも今はだいぶ様子が違うらしい。
何ヶ月か前に少し話した人が、横浜市の福祉職員をしていた人だった。寿地区について「釜ヶ崎、山谷と並んで有名」だと説明してくれた。他の2つには行ったことがあったけど、まるきり興味本位だったので、専門家を前に下手なことは言えない、と恐縮していた。
- 作者: 須藤八千代
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2004/04
- メディア: 単行本
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いまは大学の先生をしていて、本も書かれていた。2月に本を買って、3月に東京に行ったときに寄るつもりだった。時間がなく「たい焼き名店ツアー」になった。
須藤さんたちの努力があって、見た目よりもずっと「行き届いた」地域になっている。病院を出た人がドヤに住む。関係機関が相談して、在宅酸素の機械を部屋に置くことにした。でも使ってくれない。野宿したりして、倒れて運ばれたりする。
ドヤの壁は薄い。本にはくり返し書かれている。小野田寮の壁も薄いけど事情はちがう。
ちなみに隣人のA氏は、僕が寝る深夜1時ごろに帰ってきて野球のニュースを見たあと4時ごろまでゲームする。ゲームのBGMはエンドレスでリピートするので、話し声よりは邪魔にならない。こちらもたいがいな事をしてるので、悪くは言えない。
昼間に過酷な肉体労働をして、酒をあおって寝て、体力を回復して仕事に備える。そんな暮らしをしてきた人たちが住む。酸素の機械の運転音でさえ、隣の迷惑になるから使えない。野宿の理由は書いてなかったけど、持病からセキんだりするのを気兼ねしたのかな。
地方から都会に出てきて、仕事を転々としながら、ここへ流れ着く。それからも、また移動していく。留まって暮らすことが普通ではない人たちが集まっている。お互いそれが分かるから、トラブルを起こさないように、迷惑にならないように気を遣う。
TVの電源を入れた。音量は、前の住人の設定したもの。もし大音量でスポーツニュースが流れたら、いろんな意味で困る。
雨の音にかき消されて、何も聞こえない。音は鳴っている。どこで聞こえるんだろう、と近づく。前面のスピーカーの隣に耳を近づけると、ちょうど壁にもたれる形になる。60センチ先のTVに横目を向けて。前の住人も、この姿勢で見ていたんだろう。
音量は50段階の「5」だった。