日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

東京のたいやき

気に入らないことがあると、いろいろ拒否する利用者がいる。怒ると、「アラキはたい焼きを焼くな」的なことを言う。

なんでかというと、イベントでしょっちゅう屋台をやらされているから、アラキといえば「たい焼きの人」になっている。現場ではあまり仕事していないので、印象が薄いみたいだ。

何かと忙しい東京行きで、夕方3時間だけ時間が空いたので都心へ向かう。京王線の新宿行き特急の中でツアープランを考える。都会は苦手で、見た目ほど大したものは無くて疲れるばかり。それでも何か期待してしまう田舎者のDNAのせいで、動きまわってしまう。

あまり寝ていなくて元気なかった。iPhoneと手帳の路線図を見ていたら、知っているたい焼きの名店が、わりにアクセスが良いことが分かった。名店ツアーを思いついて元気出る。風邪ひきそうなのでマスクをした男が、iPhoneでたい焼きの写真を出しながら何か手帳に書き込んでいても、東京なら許される気がする。

新宿で東京メトロの1日乗車券700円を買うと気分が盛り上がる。四谷見附の「わかば」は、最初でとても良い店だった。「格式」という言葉を使えるくらい。客を気持ちよく迎えつつ、緊張感もある。20人くらいの行列だった。

たい焼の魚拓 単行本

たい焼の魚拓 単行本

絶版になっているので、伝説になりかけている「鯛焼きの魚拓本」。ふざけた人がいる、と思って買ったけど、それぞれの店の歴史やドラマが短く添えられていて、面白い。

魚拓は焼きたてでなければならないそうだ。焼いたばかりのに店の前でスミを塗りつける。嫌がられるだろうと思ったら「わかば」の店内に拡大コピーが貼ってあった。あんがいミーハーじゃないか。それよりタワーレコードは不自然すぎる。よく見ると店が写っている。タワーレコードもシュールなことをする。泳げ!たい焼きくんで、音楽とつながってるけど。(あとで調べたら、主役はユニコーンでした)

「泳げ!たい焼きくん」のモデルで、鯛焼き発祥の地だという「麻布十番・浪花家総本店」へ。麻布十番駅は地下深い。公共交通が発達してるから車いらないよ、と都会の便利さを言う人は、電車にたどり着くまでの苦労を空気のように忘れてるのかな。ろくに調べてなくて、店は定休日で、空しく階段を下りながらグチる。

人形町柳家。行列が歩道をふさがないように店の奥から並ぶ。客を一番うまくさばける作りになっている。厨房では4,5人かもっと多くが、黙々と働く。鯛焼きはつぶあん1種類だけ。工場みたいだ。

レジの前の柱がでっぱって、外から人が来るたびに渋滞している。これも意味があるのかな。

一匹焼きの手元が見えるのが、ここの良いところ。でも並んでる間は見せない。レジに立っている間だけ見える。眺めていると柱で渋滞になり、後ろから「ちょっと後ろすみませんが」と押しのけられる。

たぶん焼き職人は、行列から観察されながら仕事したくないんだと思う。なにしろここは1日中行列なんだし。でも、鯛焼き屋が焼くところを見せないわけにいかないので、少し見せる。

わかば」は手元は見えない。焼き上がりを移動する手間を省くため、焼き手がコンベアにのせると詰め手のところに流れていく。そこだけ自動かよ、と心の中でつっこんでみる。コンベアの端で、はみ出た生地をハサミで切る職人がいる。

たい焼きの魅力は、人間的なものと効率的なものとのせめぎあいだと思う。中身も作り方も大判焼きといっしょで形だけが違う。「鯛なんか口にできない庶民のために、縁起のいい鯛のかたちで」「砂糖が高価な時代に、だれでも甘いものが食べられるように」始まった100年前はそんなことを考えていたらしい。「お客さんに良いことありますように」というのを、形にこめたお菓子なんか他にあるのかな。

焼き機や作り方は店によって違う。多くは複数同時に焼ける「半自動」、たまに全自動、そして薄皮で有名な店は重い焼き型をふりまわして焼く「一本焼き」がある。一本焼きは手間と出来の良さから「天然もの」と呼ばれ、「養殖物」とは別格の扱いになる。

個人的にはとくに好きな食べ物じゃない。喜んで作ったり食べにいくけど、名店のを一口食べて「うまいけど、違い分かりません」という失礼な感想しか出てこない。日記を書いていて少し自分が理解できた。実利的な向きと、情緒的なものがいっしょになったデザイン、形そのものも作り方も。その人間臭さが好きなんだと思う。

練習も含めて年に4、5回作っていて、こんな面倒くさい型はないと思う。ウロコにヒレに尻尾のスジとか、油ぬるにも、たい焼きをはがすにも掃除するにも邪魔でしょうがない。バナナやタヌキみたいにのっぺりしていれば楽なのに。

わかば」のコンベアにもドラマがこめられているんだろう。たい焼きは面倒だ、と気づいてしまった若い衆の革新派と保守派がさんざん議論した末に「じゃあ2mだけコンベア入れよう」ということになったのかも知れない。