日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

「やさしい出会い」

8年住んでいるアパートに空き部屋が目立つようになった。

もともとは大学公認の寮だった。大学は、下宿の斡旋をミニミニに委託するようになる。登録料を払うよう言われた大家さんは、頭に来て紹介を断り、今は口コミだけで入居者を集めている。

ぼくが入居してから、なぜか人が増え、満室が続いた。大家さんは、「荒木くんのおかげだ。またいい人を紹介してな」と、座敷わらしのように扱ってくれる。僕が紹介した2人とも、ここに適応できず、数ヶ月で出ていった。

通学に2時間かかるゲームマニアは、ゲームのない四畳半で「ずっと壁を見つめていたら、頭がおかしくなりそうだった」と言いのこして家に帰った。通学に6時間かかる、金曜日の2単位を取りに毎週木曜の夜に富山県を出て土曜日のバイトに間に合うように仮眠して「帰宅」していた男は、夜の41号で轢きそうになったタヌキをよけてガードレールにぶつかり、諦めて寮を借りた。


裏の洗濯場にて。もう紅葉する季節です。夏は、この木にアシナガバチに似た虫がびっしり付く。

15室あって、今は5人しか住んでいない。住人がみんな仲良しというアパートでもないけど、以前は、台所で体育学部生が半裸で筋肉を見せ合っていたり、中国の留学生の鍋から天井に届くくらいの炎が吹き上がっていたり、家賃1万円しないアパートの駐車場(土)に、Lincolnというリムジンみたいな外車がとまっていたりした。活気があった。
体育学部生にはスポーツマンらしくマメな人もいて、汚れた台所をいつもきれいにしてくれた。昔は自炊していて、汚すばかりだったので嫌われていたと思う。

人が減ると家賃も入らなくなって、大家さんも元気がない。変わらず毎朝台所の掃除をしてくれているが、最近は力が入らないようだ。

先月のある日、帰宅して風呂の湯を入れに行った。栓を閉めようと浴槽をのぞくと、ステンレスの壁をゴキブリが歩いていた。熱湯のシャワーで排水の穴に流しこんだ。シャワーを壁にかけようとすると、様子を見ていたもう一匹が逃げるところだった。木の窓枠のすき間に入っていく。湯を入れ始めて、歯でも磨こうと台所に行くと、洗面台と机に一匹づついた。数メートル移動しただけで、立派な成虫5匹に出会った。もう一匹はどこにいたか忘れた。

次の日に、一番効きそうなゴキ駆除剤を買ってきて5,6ヶ所に貼りつけた。最近のは、小型で粘着テープがついていて壁にも貼れる。その夜、風呂に湯を張りに行く。平和な浴室だった。さっそく効いたのか、効いてなくても、たまには出ないこともある。普通だ。貯まったころにタオル1枚巻いて戻る。さあ風呂だ、とフタを開けると、水面にひっくり返ってただよっている。たしかによく効いた。

世界の山ちゃん」で手羽先とか「皮が手羽先」の餃子とか食べて飲んでから、内臓が弱っている。旅先だったので治りにくく下痢が続く。アパートに戻ってトイレに入る。弱った尻を、いつもの安くて固い紙で拭くのか。そして、いつものように使い終わったロールがそのままになっている。スペアを探す。水タンクの上あたり。

今日はやわらかいペーパーだった。ただやわらかいだけじゃなく、表面にふわふわな加工をしてあるグレードの高いペーパーだった。淡いブルーの柄も付いている。実際性能よかった。やっぱり小野田はいいところだな。決心がついた。

じつは、3部屋目を借りようか悩んでいた。じつは、3部屋目は少し使いかけている。借りるふんぎりはつかなかった。窓は閉まらなくなるし、雨戸は閉めたら開かなくなるし、これ以上家賃払うのもな。でも、あんな良いペーパーが出てくるなら、大家さんのこづかいが上がって喜んでもらえるなら、いいだろう。

nisshinboという会社のペーパーの芯には「やさしい出会い」と書いてあった。商品名でもない、唐突な言葉の意味がわかるのは、自分くらいかも知れない。