日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

伊予旅8・学歴さんと報奨さん

旅の終わり。駅前の居酒屋で一杯飲んで夜行バスに乗る。おっさんの行動パターンだ。ぼくは飲む前に風呂に入りたい。

ここは松山。道後温泉本館→居酒屋→夜行バスで前のイスに足を投げ出して寝る、というオヤジコンボを使う。前がいない席にそっと移動する。

正確には居酒屋1と居酒屋2があった。初めて入る店は緊張する。一期一会である。こんなところで使ってしまった、すまない卓ちゃん。戸を開けると女がカウンター席3つ使って、横になってメールを打っている。この状況では「お邪魔しました」と言って店を出て構わない。旅で学んだことの1つ。

駅にくっついてる「ふくら」は、寿司も作るが「シャリが切れちゃって」ただの居酒屋だった。気さくな女将さんがいて、それで十分だった。女性でなくたって雰囲気のいいご主人がいれば、酒も料理も何でもいい。

最初の店では、けっきょく酒と刺身を頼んだけど、人が最低だった。気の利いたこと言わなくても、居心地のいい人はいる。ぼくらの仕事も居酒屋みたいなものか。
「あなたとは見解の相違があるようだね」何か忘れたけど、下らないことで隣のおじさんに「いや違うんです」と釈明することになった。愛媛県人は細かいこと言うんだと思った。でも、その人は議論してる風なしゃべり方が好きらしい。飲み屋選びに失敗したと話すと「失敗はたくさんしていいんです。必ず良い店が見つかります」と、内容はくだらないが良いことも言う。

TVの総理大臣の顔を見て「こいつは何とか大学だから何とかだ。何とか大学はああだから、しょせん何とかなんだ」と解説を始めた。

道後温泉駅を降りると、からくり時計の下の人が集まっていた。19時の時報で仕掛けが動く。でも多くの人はボランティアガイドのおじさんのトークを聞きに集まっているのだった。体を壊して、歩けること食べれること、小さなことが有り難く思えた。欲張らずに、人に喜んでもらえる仕事としてガイドを始め、10年間ほぼ毎日ここに立っている。名物のヒゲのガイドさん。そんな経歴を全部しゃべっちゃう俗っぽさも気持ちのいいおじさんだった。

道後温泉本館は他を知らないから来ただけだけど、夜来てよかった。「千と千尋の神隠し」のモデルはどこかとか、館内にも雑誌の切り抜きがあったけど、日が暮れてからの怪しさはここが一番じゃないかな。

歴史的な建物は日が暮れると嘘がはがれる。現役の建物は内側からの光がある。昼間はごまかせるが、夜外からライトアップしたら台無しになる。本館の灯りは現役だ。建築家は、内側から漏れる光が建物を完成させるように作ったのかもしれない。

てっぺんの小さな天守閣みたいなのが赤く光る。観光客向けといえ、これはやりすぎだと思った。

本館三層楼の屋上にある振鷺閣は、古典的な建築に一段と風趣を添えていますが、建築当時は宝形造りで、銅板葺きの屋根という漸新な設計と費用が高かったことから、無用のものを取りつける必要があるのかと物議をかもし、町の火災警戒の火の見やぐらという名目で納得されたという話が伝わっています。
閣内の広さは約1坪、周囲の窓は赤いギヤマンをはめた障子で、夜になると中央天井の釣ランプをともしたことから、それが赤いギヤマンに反射し、ネオンのない当時の湯の町の夜空に異彩を放ったといわれています。

道後温泉について|道後温泉物語|道後温泉旅館協同組合(道後温泉観光協会)

調べたら開業当時からあるみたいだ。ギヤマンとは「切り子ガラス」のこと。日本最古の温泉だ、と伝統を謳いつつ、なかなか斬新なことをする。

また格天井の中央から吊るされた太鼓は、時刻を告げる「刻太鼓」として1時間毎に打ち鳴らされていましたが、今は朝・昼と夕方だけになり、昔ながらの懐かしい音に湯の町の1日が始まり、暮れています。この刻太鼓の音は環境庁の残したい日本の音風景100選に選定されています。

これはヒゲのおじさんの口上だ。からくり時計も太鼓の音を流す。帰りにも寄ってみた。さらに人だかりが大きくなっている。

おじさんの正面のおばさんが「なぜ市は、こういう熱心な人に報奨を出さないのか」と聞く。おじさんは嬉しかったろうが、それをこらえて「いやいや、そんなもののためにやってない。人の欲は限りない。それが嫌でボランティアをしている」と返すが、おばさんはますますヒートアップする。「それはおかしい、市の怠慢だわ」うわーどうでもいい。

「おまえが言うな」の学歴さん、まるで場違いな報奨さん、と赤いギヤマン。いまいち憎めないのは、俗っぽさが薄っぺらくないからだと思う。薄くない俗っぽさは「生々しい」が合ってる。人間味がある。たぶん、ここの人は人間が正直なんだろうな。