楽しい休日
クリエイターズ・マーケットへ
会場を出ると、とにかく寒かった。駅のホームに上がると防風のフェンスはあったけど、それを越えて港の強い風が吹く。階段を下りて座るところを探したけどなくて、窓から船を見ている。行きのあおなみ線は混んでて、早く座りたかった。
風邪がひどくなってる。朝家を出てから面白いように「着実に」悪化していく。職場で流行中の胃腸かぜだと思う。夜は大阪で「てんつくマン」の映画をみる予定だった。名駅の金券ショップあたりが分岐点で、新幹線の値段表を読みながら「どうせ乗らないだろうな」と思った。あれはウイルスが言わせたんだと思う。ウイルスに乗っ取られる前にささやかな抵抗を。会場でソソウをする前に、駅のトイレで一発吐いた。(その後会った人・・スミマセン)
ドアが開くとすぐに座って目をつぶる。荷物をまとめるのも面倒で足の間にはさんだ。
向かいのおばさんたちが話している。初対面みたいだ。
「きれいですね」
「クリエイターなんとかっていう、ポートメッセでやってるんです。面白いものがたくさんありましたよ」
目を開けると、おばさんが風車の変形したようなおもちゃを回していた。写真の右端のもの。
竹とんぼのように回すと傘が開いたり閉じたりする。色とりどりの細い紙でできた傘は、回した勢いでねじれて模様がめまぐるしく動きまわる。
再び静かな車内。寝る。おばさんは、その間ずっと回し続けていたらしい。目を開けると車内の雰囲気が変わっていた。おばさんの隣の男の子が回している。その子のお姉ちゃんがじっと見ている。電車の真ん中の座席の10人くらい、全員が見ている。左向かいのカップルは、さっき顔をよせあって話していたはずなのに、そろって中毒性のある動きに見とれている。
「お姉ちゃん、あんたもやりたいんじゃない?」
母親が言うと、恥ずかしそうに首をふる女の子。こんどは僕の左側の端に座っていた男の子が引き継いだ。回る回る。名駅でみな降りる。ホームで、別の登場人物が話している。
「あれいいな」
「あのおばさんすごいな」
おばさんは、ゆっくり大きな黒いカバンにおもちゃをしまってから席を立った。
そのうち、どこかの町から子供がいなくなると思う。
人生
そこにいた人はみな元気をもらったようだ。クリマ万歳である。ぼくも元気をもらった。調子にのって栄にメガネを直しにいくことにした。2週間前に寝返りでつぶした。すぐ壊れるのに、このへんでは名古屋まで来ないと直せない。でもやめられない優れた製品です。アイメトリクスという。栄地下街で西と東を間違えて、はしっこまで来てしまったころにはもうフラフラだった。
メガネ屋を出て視界良好、こんどは県美術館に寄る。県美術館には「木村定三コレクション」という常設展示がある。ほとんどは高尚でよく分からないんだけど、数年前「新しく追加されたもの少々」というすみっこの展示室を何かのついでに見て、部屋全部好きになってしまった。目録が出るだろうから、と作者もメモらず出てきたらあまり情報がない。なにか出てないかな。
一階のアートショップまで、座ったままエスカレーターに運んでもらう。美術館収録作品の図録コーナーはすみっこの棚の足下付近にある。座り込んだまま動けない。電話が鳴る。職場から。ものすごく丁寧な人なんだけど要約すると
「明日の職員が風邪で倒れたので、当直だけど早く来い」
こちらも似たようなものだけど、まあ新人の子が倒れたならしょうがない。サボり方を知ってるほうが受けましょう。
ほぼ意識なく1時間半移動して自分の布団に入った。メールや電話が鳴るけど動けない。そもそも「押し入れベッド」なので健康でも一度乗ったら降りるのは楽じゃない。(二度寝できないための「介助ベッド」なんです)
23時にドアをたたくやつがいる。「あらきさーん!キク○でーす!いますかー?」
数ヶ月に一回の災いが今日来るなんて。ミクシィのリンクを張っておこう。ファンが増えると喜ぶとおもう。大迷惑だけどいい人だ。いい人だけど、年に数回会うくらいでいい。
朝から飲み食いしてないので声も出ない。「おーい入っていいぞ」何も言わないのにどんどん人が入ってくる。四畳半に7人ひとがいる。目の前に知らない女の子がいる。いつもこんな状況から始まる。説明するらしい
「この子が彼氏と別れて落ち込んでるんで、人生の先輩から励ましの言葉がほしい。そのために豊田まで来た」
で、みな黙る。とりあえずベッドから起きあがる。みかんが渡される。「静岡に寄ったんで三ヶ日みかん買ってきました」何も口に入れてないので、まずみかんがうまかった。それと、下らない話をしてるうちに楽しくなってきた。みかんを絶賛していると袋で追加してくれた。
元気をもらい押し入れベッドから降り立つ。汗かいての積極的治療に切り替える。まず布団を追加する。大コップに砂糖三分の一と夏のスープカレーのスパイスを適当にぶちこむ。水を入れてレンジで加熱する。熱めのを流し込んで寝る。で、朝7時のリミットまでに治っちゃったわけで。
当直明けに近所に出来た銭湯につかりながら考える。だいたいこんな風にして生きてきた。モノも人も、各時代ちかい役割のものがいて元気づけてくれたり、冷やかしたり面白がってくれる。ウイルスも諦めてくれた。みなさんありがとう。
ねこ
人生と言えば、この写真の人形はきょうだいへの贈り物です。きょうだいとはあまり話さないがたまに物を贈ったりする。この特別な日の、大事な登場人物のひとりである。みな「気持ちわるい」「こわい」と言うけどめちゃくちゃ良いよ。あげたくなくなるくらい。見てすぐ買おうと思った。値段に引いてしばらく待ったけどやっぱり買った。ブースに女性たちが集まっていて「あの人買ったよ」「えー」って声が聞こえた。
会場で「いいねこがいた」「ねこ買ってくる」と騒いでいたが、これはウサギだといま知った。