東京二日目・後編

浅草

知り合いと会って「どじょう」を食べる。「店は適当に歩いて決めましょう」と話した、その場所にあった。古い店らしい。大広間に低い机が並んでいた。板か机かという低さだ。畳が好きで、和室の良さは物も人も畳に引き寄せられている感覚が良いと思う。建築より物理の話だな。ここだけ重力が強い。

雷門の近くのお茶屋さんで抹茶のソフトクリームを買った。四川省の地震への募金活動をしていた。入れようかと思った。元気のいいおばさんたちが「ちょっとでいいから、喫茶店のコーヒー一杯抜いたと思えばいいから。ねっねっ」入れた人には「ありがとうございます！本当にありがとう」と何度も頭を下げる。
人の善意をうまく引き出すしくみがあるはずだ。おばさんたちの効率は悪い。困っている人がいて匿名の寄付をする。その後よくなったのを見て聞いてひっそりと喜ぶ。自分なりの安っぽい寄付のイメージ。浅草では、入れるところが派手だし礼まで言われる。関係ない人に。効果は、地震や戦争相手では自分に返ってこない。そんなつもりじゃないのに、人前で「ありがとう」を言われるためにしたように思えてくる。

一円も出さないのに批判的だ。アイスはお茶屋さんらしからぬ平凡な味だった。「大人がアイス買う金があったら寄付しろ」と言われているようで少し意地になっている。大人の男が一人でアイスなめやがって。本人も不本意ながら溶けるもんでなめなければ。知ってれば寄付した。

よく宣伝されるポピュラーな大問題なほど、実感するのは高度な想像力がいる。地球レベルの問題が多くて善意はむずかしくなった。職場も寄付を頂くことがある。「何のために使われたか」明らかにすることは渡す、受ける側どちらにもいいと思う。全体の予算に入れたら「毎年いくら入るか分からない、だんだん減っていく」使いにくい金になる。「出どころのはっきりした顔も分かる」まとまった金というのはありそうでない。最優先ではないが重要なことを思いきって行うにはいいかも知れない。

上野

この後、昔の友だちに久しぶりに会う。空いた3時間を、東京でどう過ごせばいいか分からない。

上野で降りたら博物館やらいろいろあるだろう。降りても人でいっぱいだった。座るところもなく、公園の林に入ってマンホールのフタに座っていた。お台場でもらったゴザをしくと快適だった。

寝ていると林の小径を人が通る。目を開けると目線が合った。いつもなら気まずいところだけど、すこし雰囲気がちがう。実物は初めて見る「老紳士」だった。老紳士は山高帽にステッキを突く。鎌倉から知人を訪ねて東京に遊びに来たそうだ。バレーの「韓国VSフランス戦」を見てきたそうで、何度も「東洋人は丈が低いからダメだ」と話す。

山も土地もあって隠居してからは遊び歩いている。「朝から一升は飲んだな」まだ昼過ぎですよ。出身は四国だと話すと、その昔高知の市長と会い、出された皿鉢料理がうまかったと言う。何者か知らないが全国飛び回っていたようだ。それとなく大物ぶりをほのめかすが紳士は嫌味がない。こういう人種は東京ならでは。

有楽町で逢いましょう

最新刊おいしんぼから。「三大珍味などというが、安くて出回っていても高級品に劣らない食材がある」たとえばシイタケはどう調理しても美味。いつのまにかカーストが隔たってしまった幼なじみが焼酎の店に連れていってくれた。本四連絡橋の話で盛り上がったことだけ覚えている。あとバターやらニンニクが染みたシイタケの串がうまかった。

彼と遊んでいた子供のころはシイタケが大嫌いだった。大学の指導教官は40過ぎて未だにシイタケ嫌い。古い友人に「おまえまだシイタケに虐げられてるのか」と言われる。

新宿

東京裏観光には歌舞伎町より都庁ちかくがいい。東京発夜行高速バスのほとんどが集まる。東京にそんな広い場所はないんだろう。大型の観光バスが何十台も行き交う。ナウシカのオームのように。遅刻した僕は名古屋行きを見つけては声をかけて歩く。ツアーバスは当日乗れない。似た境遇だが僕より危機感のある女性がいて、運転手の一人が「なんとかデパート前のなら当日券あるよ」と教えていた。それを聞いて僕もふくめ何人か走った。アジア旅行みたいだ。

名古屋

5時に着く。フラフラで地下鉄のホームで待つ。おばさんが道を尋ねてきて役に立たなかったけど少し話した。仙台から出てきたばかりだそうだ。「今池にカイザーというパン屋があるらしいけど駅から近いか」聞く相手が悪すぎる。伏見乗り換えのときお菓子をお土産にいただいた。笹の葉にくるまれたよもぎ団子を地下鉄車内で受け取るのはなかなかの映像だ。目が覚めた。

携帯がなくなっていた。どのバス会社だったかも覚えていない。代わりによもぎ団子をもらった感じだ。まあいいか。すぐに諦めて新しい番号で携帯を買ったら、古いのが名鉄バスの落し物に出てきた。