日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

ギリヤーク尼崎の神がかり

ギリヤーク尼崎さんというと、その筋ではとても有名な人で、NHKの番組になったこともある人だ。大道芸人だと本人は言う。人は「前衛」舞踏家だと言う。感受性ゆたかな十代の大阪時代にその番組を見た。見てはいけないものを見てしまった、という感想。五、六年たって友人に誘われた「大須大道芸人祭り」の出演者リストに名前を見つけた。「この人だけは見ないとならない」と友人を一生懸命説得していた。年月が消せない傷のようなものを残していたらしい。
大道芸とは何か。客を選べない。初めて会う通行人を相手に、足を止め、心をつかみ、感動させ、お金を出してもいい、と思わせなければならない。場所だって自由なようで、きっと勝手にはさせてくれないだろう。日光と夜は街灯を照明にして、芸と身一つで、期待度ゼロの客から金を出させる。

その場にあるものはなんでも使う。路上すべてが舞台だから。360度すべてが見られるから、自分をすべてさらけ出すしかない。良いときもあれば悪いときもある。乞食を演じたら、その芸で客を泣かせることもあれば、本物と間違えられることもある。その振幅が大きいから、目を背けたくなるような悲惨な状況もあるし、「神が降りる」瞬間もある。

演目の終わりにやる「念仏じょんがら」は、さいご本当に死ぬんじゃないか、と思ってしまう気迫のこもったギリヤークさんの代表作です。その動画が二本あります。時間や場所は違うけど、同じ大須大道芸人祭りでのもの。

少し知って、他人とは思えない自分には、正視できない。自転車のおっさん。子供たち。野次もとぶ。

次。神が降りた。

宗教じみた熱狂。前のと違いすぎて笑える。

二本目は僕が撮ったもの。いい感じのビデオになってる。踊ってる場面の時間は8分の1くらいしかないのに、あの場の熱狂が伝わってくる。これは自慢ではない。カメラにも神が降りた。

「念仏じょんがら」が始まると同時にデジタルビデオのバッテリー切れで電源が切れた。スイッチが入らない。しばらく待つと約15秒ほど起動して、また切れる、という状態になる。カメラの機嫌をとりながらスイッチが入る時だけカメラを回した。最後の客席のシーン以外まったく編集していない、テープに撮ったままだ。

カメラが動かないので60分テープが余った。祭りはこの演目で終わる。撮るつもりのなかった観客と話すギリヤークさんを、カメラが完全に止るまで撮った。意図しなかったけど、それが良かった。何十回見ても飽きない。

「やっぱり技術で踊るってわけにはいかない」言い切ったところでカメラは止まった。