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ユナイテッド 93「落ちないオチ」提案(ネタバレ)

ユナイテッド93 - allcinema ONLINE

吐き気がするようなリアルさ: たけくまメモ

allcinemaに影響されて書いた「知ったか」映画評

無名の俳優を使い、関係者への綿密なインタビューを基に作られたドキュメンタリー。・・正確には「記録映画」じゃないので「ドキュドラマ」と呼ぶそうだ。「悪趣味な」ラストシーンは好きになれない。それをどれだけ減点しても、この先長きにわたって人々の心を揺さぶりつづける名作傑作だと僕は思う(「名作」は客観的なもの?)。
TV越しとはいえ911を知っている僕らには想像もできないけど、仮に、この映画の題材が911ではなくフィクションだったり誰も知らないマイナーな事件だったとしたら、ひどい駄作か「B級なのに超熱演」というマニア好みの評価になるんじゃないか。

アメリカ航空11便は一体どうなった?レーダーから消えたりビルに突っ込んだり、実はまだ飛んでいたり。スクリーンから押し寄せる膨大な情報量にもかかわらず、何が起きてるか全く分からない。(実際の現場も混乱してたから、表現として「正しい」んだけど)登場人物の発言はストーリーにほとんど影響しない。「戦闘機を飛ばせ。IAA(連邦航空局)など無視だ!」あれは結局飛んだのか?乗客の元パイロット「操縦桿さえ取り返せば何とかなる」取り返したが何ともならない。皆に熱望されて登場した連絡将校は何しに来たんだっけ。

ドキュメンタリーなのに何が起きてるのか分からない。主役が居ないせいか、それぞれのシーンがバラバラな印象で、ドラマ仕立てなのに全体としてのストーリーを追えない。テロリストも完全な悪役ではない。目的は違えどテロリストと乗客、それぞれがコクピットへ押し込む時の心理描写はよく似ている。すごく客観的で冷徹な視点だと思う。原因が最後までわからない、新しいパニック映画かもしれない。得体の知れない何か巨大なものに突き動かされる人々(テロリストも含む)。

この作品にシナリオや場面設定は必要ない。だれもが知っているから。まだ5年しか経っていない。すべての米国民と、世界中の、この映画を観ることができる人々の大半は、何が起きたか知っている。「ストーリー」も要らない。ストーリーを語らせる主役も、ストーリーに観客を引き込むスターも要らない。観る人に強烈に刻まれた911の記憶こそが作品のストーリーで、映像自体は、その記憶にディティールを加える大道具小道具さんの役割を果たすだけだ。この時期に911についての映画を観るということは、程度に差はあれど観客のほとんどが当事者といっていい特殊な作品なんだと思う。(だから、観客ひとりひとりが主役で・・と書きかけて、これ以上はアザといのでやめます)

題材が題材なだけにいろんな力が働いたんだろうけど、監督は職人仕事に徹して「現場にいた人々が何を見て、何を感じていたか」だけを純粋に取り出して描いた。ハンドカメラ、ほぼリアルタイムな進行。大道具らしく「直接的」な方法で観る人の心を訴えかける。

「落ちないオチ」で救って欲しかった

書きたかったのは上の「突っ込みどころ満載」の映画評ではなくて、「ラストに救いが無さすぎる」ことだ。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観たときの許せなさと似ている。現実の悲劇なんだからしょうがないと言われるかもしれないけど、観客に「心理的ショックを与える」映像技法を使っただけに見えた。余韻も何もない。職人が、最後の最後で誘惑に負けたか、という感じだ。「ダンサー・・」は内容よりもテクニック重視で見せる作品だから許す(ファンの方すみません。なぜか好きになれない)けど、これは名作になりえる作品なのに「2度見る気になれない」というのは実にもったいない。

一緒に観た友人の感想がうまく代弁してくれた。
「緊張の連続で疲れる。しかも最悪の結末が分かりきっているから余計つらい」
「ラストは元パイロットがうまく飛ばして無事帰ればよかったのに」
「良い映画なのはわかったから、話変わってても許すぞ、と思いながら観ていた」
そんな無茶な、と笑ったけど大賛成だ。どうせ結末はうんざりするほどニュースで教え込まれている。コクピットに向けて走り出した時点で終わってしまっていい。無くたって分かりきっている。乗員乗客全員死亡、その先に何のドラマもない(疑惑は色々あるけど)。

いや、これほど重く揺ぎない事実を全員が共有しているなら、少々のフィクションを入れても事実は目減りしない。飛べば良かったんだ。元パイロットが数回キリ揉み飛行した後、どうにか立て直して乗客の喝采を浴びる。元管制官が、よく分からないが、その知識を使って見せ場を作る。パイロットが「あんたがいればジャンボも飛ばせそうだよ」と言って手を握る。さらに「・・乗客のみなさん、目的地をハワイに変更します!」とかアメリカンジョークを飛ばす。乗客たちは「親切な隣の人」のカード残高がゼロになるまで、愛する人に電話をかけ続ける。

これはこれで悲しい映像だけど、重い事実を何度もつきつけて立ち直れなくするよりも、他人と共有できる深い余韻を残すほうが、微かに希望がある。