椅子を作る
なぜ作る「尻のあたりが」
約一年間、Lサイズのジムボール(ゴムボール)がパソコン用のイスだった。いろいろ問題があった。
- 何時間か座ると股関節から下が麻痺する。血が止まってる。
- 尻からモモにかけてムレる。すべり落ちるくらいのムレ度だ。
- 痔になりそう。軽く血が出たことはあるが、本格的な痔はよく分からない。でも痔の発症に最適な環境が、そこにある気がする。とにかく尻の辺りの温度湿度が熱帯雨林の沼地のような生き物の楽園状態なので。
いいことも多い。座ったまま寝転がって背中のストレッチができる。毎日5時間も座っていたから、あちこちのマイナーな筋肉が鍛えられたに違いない。アグラも正座もでき、イスとしては高機能なほうだと思う。
冬は良かった。しだいに、ムレ具合で季節を感じる。このまま夏は越せない予感。
ジムボールは腰痛に良いらしい。でも腰痛と痔のトレードオフに悩む生活は何か間違っている。両方要らないって選択は高望みか。
こんなイスが欲しかった。
- ゆったりアグラをかける
- 正座できる
- クーラーなしでも尻がムレない
- 生腿(モモ)でもベタつかない。肌触り重要。サラサラ感。
- 一日5時間は座って疲れないしっかりしたもの
- 金かけない
イメージとしては「アグラもかける事務用イスで、座面は竹。」こんな奇特なイスは世の中に存在しない。なので作ってみた。
作った「もうムレない」
「場所によって太モモの肉を挟んで痛い」など小さな不具合もあるけど(致命的?)、だいたい思い通りのものができた。
- 材料費は、1000円以内(600円くらい?)
- 座面は武道具店でもらった竹刀をバラしたもの。はじめから角を取って滑らかに処理してくれているので、肌触りよし。
- 通気性よし。これが一番大事
- 竹の凹凸があるので正座は苦しい。江戸時代の拷問をソフトにした感じになる。ギザギザの板に正座してて、腿の上の重しがお代官の気分で増えたり減ったりする。
反省「閉じた発想はダメ」
友人たちに見せると、思ったほど評判が良くない。手作りしたことはある程度評価してくれる。でも「なんで普通のイスじゃダメなんだ」という感想が言外に伝わってくる。
イスを自作することは昔からの憧れだった。座る動作は動物にとって自然じゃないから、長時間座って疲れないイスを作るのは難しい。しかもずっと重量がかかってハードな使われ方をするから丈夫で無駄のないように作られる。良いイスは究極の機能美を持っている。
モノの歴史や文化が好きな人なら、イスが座る人の地位や権力をあらわしたり、行きつけの店の「暗黙の指定席」のように目に見えない影響力や存在感を象徴するモノとして面白いかもしれない。その人の写真とか以上にその人そのものを表すもの(「の」が6回)。
自分の使うイスは個性的であっていい。自分にだけ合うイスでもいいじゃないか。誰でも座りやすい既製品は悪くないけどベストでもない。
だから作った。と、ここまではカッコ良さげ(そうでもないか)に見えるけど、実際は違った。違っていたことを思い出した。ぼくは個性を表現するのが大事と思ってDIYしてたわけじゃなくて、既製品をうまく使いこなせないから、仕方なく自前で作っていたような気がする。イス、机、ベッド、棚。それ以外にも、人として必要なルールあたりも既製品が苦手、要するに社会不適合人間なんで。
それがダメというわけじゃなくて、そろそろ次へ行かなきゃならないと思うわけです。ヘタクソながら味のある作品ができて喜んでくれる人もいるけど、発想が自分だけの理想や欲のなかに閉じているモノは良くない。認めてくれる人も減って最後は自分だけになるだろう。