日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

四国の深淵「林道・日の丸多美線」

「竜ヶ岳」のことを思い出したのは午後4時すぎで、「大歩危小歩危」の西祖谷村の谷ぞこは深くすでに日は差さない。竜ヶ岳は「大歩危小歩危」のある32号線から2本(2山)裏通りにある「東洋一の断崖」である。「東洋一・・」で検索すると日本に限ってもここと東京都・御蔵島の2つあるようだ。

google:東洋一の断崖

高低差597mの絶壁にへばりついた木々が秋に紅葉し巨大な壁画か屏風絵のようになる。その芸術点も込みで東洋一ということだろう。

5年くらい前に短い旅行を計画した。スケールの大きいガケを見上げるか見下ろせば短期間でも感動できると考えて、いろいろ調べた。竜ヶ岳はこのとき知った。けっきょく隠岐諸島西ノ島にある高低差300mのガケ(名駅タワーズ245m)を見にいって、感動できたが、竜ヶ岳のことも気になっていた。実家に近いけど時期を短い紅葉に合わせるのはむずかしい。

5時過ぎ、日没前に竜ヶ岳につく。岩の壁が、紅葉しはじめのグラデーションで覆われている。ざんねんながら暗さで色があせてしまった。でも、紅葉は途中の祖谷(いや)渓谷でじゅうぶんに眺めた。今夜中に名古屋に着かないとならないのに、日没を過ぎてまだ県内から出られない。だんだんと暗い影が広がる岩の壁が、不安のように背中からのしかかる。

徳島道は北にある。そう遠くない。とはいえ四国山地の真ん中は、古来から平家なんかの落ち武者をひきつけてきた秘境である。道は険しく狭く人を寄せ付けない。道の駅で拾ったパンフレットによれば徳島に抜ける道があるようだが、相当な悪路を走るんだろう。今回乗っているのは兄にもらった四駆で、すこし気が大きくなっており、北へ抜けることにした。結論として、四国山中は今でも秘境なんだ、と。

曲がりくねった坂道を登りきったら霧が出た。途中何度か道が分岐したが、そういう時にかぎって濃い霧が出て標識を確認できない。

それ以外はうすいガスで20mくらいは見通せる。その20m内に現れては消える景色に異変が起きている。まずコブシ大の石が道に転がっているのが見えた。落ち葉で路面が見えない(県道のはずだが)。折れた枝が暗い森から飛び出し車体をこすった

落石が道路に散乱している。左右から雑草潅木がせり出してガサガサと車に当たる。変だ。道を間違えたか、と思って開いたパンフレットの地図は表示圏外。ついには、土砂崩れで道が半分埋まっている(写真とは別)。使われていない林道に入ったようだ。

Mapion:道を間違えた分岐点。本当は下から来て左折する。直進すると道が消えるのはどうして?(実際はつながってます。地図のエラー)

Uターンする場所もなく、落石をよけながら30分走りつづけると森が開け、大きな谷のずっと下のほうに家の灯りが見えた。アカリダ、ニンゲンダ、とつぶやきながらどんどん坂を下る。祖谷渓に逆戻りしていることも有得るが、何でもいいから下界に降りたい。人間の気配を感じるだけでホッとした。すごい斜面に建てられた青い屋根の家々を抜け谷底に向かって落ちていく。谷沿いの道に合流した。ここはどこだ。人に聞こうと車を降りると、7時過ぎなのにすごいボリュームで町内放送が始まった。「ピンポンパンポン、イガワ村○×からのおしらせです・・」やった、イガワムラは正解。徳島へ抜けた。

新しい車は、ひどい悪路をよく走ってくれた。他人の車に愛着をいだく「儀式」のような効果があったみたい。深夜1時過ぎに帰宅するまで、快調に620キロを走り通した。