日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

五皿目の予感

友人Iはときどき鋭いことを言う。僕がついたウソを見抜いたり、難解な映画をわかりやすく解説してくれたりする。僕のB級ホラー好きは彼の影響です。そして、彼のケータイの着信音は「電話に出てくれませんかねぇ?」とささやく稲川淳二。3回リピートする前に、出ざるを得ない。

飯田市に住む後輩をたずねて、Iと僕ともう一人の3人で出かけた。

車内で昼ごはんをどこにするか相談している。

友人I 「じゃあ『そばの城』へ行こう。前回寄ったけど、そば食わなかったし」

『そばの城』という名前の道の駅で、おみやげ屋と自家製そばを食べさせる食堂がある。山の中に派手な城が建っているから目立つ。前回来たとき、城が気になって中に入ったものの食堂の自動ドアまで行って引き返した。下條村峰竜太のふるさとらしく、ありとあらゆるものが「竜太なんとか」だった。「竜太うどん」「竜太そば」「竜太やきもち」それに、食堂は観光バスを受け入れられるように広々して学食みたいで食欲をなくした。今回は後輩が「何もない町ッス」を連発してかわいそうなので、飯田市の良いところを探しに再び城へやってきた。

友人I 「すみません。『竜太うどん』が食券の機械に無いんですけど・・」
店員のおばさん「ごめんねー。今『竜太うどん』やってなくて、フツーのうどんになるけど良い?」

郷土の誇り峰竜太も、使えなければリストラの対象となるようだ。

ここの料金設定はとても不思議で最後まで悩まされることになる。ざるそば食べ放題1200円は高いのか安いのか分からないが、ざるそば1人前が700円とはどういうことだろう。よほど大盛りなのかマズイのか。でもせっかく長野まで来たんだし、たらふく食べて帰ろう。3人が食べ放題を頼んだ。5人前食べると「粗品」をくれるそうだ。

友人I 「アラキ、お前食うの遅いぞ」「この量やったら5皿いけそうや」

5皿目が運ばれてきたのを奥の席に回そうとして僕がざるそばの台を持つと、底が思ったより広く開いていて皿をひっくり返してしまった。すぐ取り替えますから、と調理場へ戻ろうとした店員を友人Iが止めた。もういらないと言う。

友人I 「お前が皿を倒した瞬間、イヤな予感がしたんや」
友人I 「これ以上は止めとけというサインやと思う」

真冬にざるそばを食べ続けるのはあまり楽しくない。そば茶が温かくておいしいのが救いだ。でも量的にはさほど苦しまずに5皿を食べ終えた。店員のおばさんが粗品の説明をしに来る。自家製そば2人前を・・と言い出すので、4人そろって「またソバかよ」と突っ込みそうになる。しかし、太っ腹な店だ、くれるのは持ち帰り用のパック詰め生そばだった。城というだけはある。単純に7人前1‚200円だとして、大丈夫なのか城主?

はしゃぐ達成組をながめていた友人Iに迷いが生じた。誰かが言う。5人前食べれば700円X5=3‚500円プラス生そば2人前で大もうけ、お前は4人前2‚800円でいいのか?・・今思うと小学生レベルの会話だ。

友人I 「しゃあない・・じゃあ俺もいくわ」

カッコいいことを言っていたけど粗品は欲しかったようで、休憩か姿の見えない店員を調理場まで探しに行った。食堂でもらった引換券を一階のおみやげ売り場で交換してくれる。売ってるものと同じだと店員は言う。しかし、生そばの値札に530円と書いてあるが、一体どういう計算してるんだ。一皿食べておみやげに生そばを買うより、さらに4皿食ったほうが安いのか。いやキミは原価がどうとか外食産業を分かってないと言うかも知れない。それにしたって、一皿700円出した奴は浮かばれないな。

友人I 「悪いけど車停めてくれんか?気分悪い」

車に乗って急にだまったかと思ったらSOSを出した。そばがこみ上げてくる、と苦しそうだ。

友人I 「カーナビでコンビニ無いか調べてくれ。トイレ行きたい」「いや間に合わん。ここで吐く」

そう言い残して小さな集落の路地へ消えた。10分ほどして戻ってきたが、まだ辛そうだ。

友人I 「(嘔吐物が)全部そばやった・・まだ胃の中にそばがたまってて、胸ヤケする」

全部吐けば楽になるぞ、と誰かが言った。

友人I 「いや、これでいいんや・・やっぱ俺の予感は正しかった。最後の一皿がアカンかったんや」

つまり、5皿目の分だけ吐けば治るということらしい。負けず嫌いだと思ったが本当に治ってしまった。
オチ切れず。

# CE 『文体が小説みたいで、おもしろく読ませていただきました。 友人Iさんの落ち着きようはすごいですね。』(2005/2/13 2:19)