日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

隠岐・西ノ島の思い出

夕食をとりに外へ出ると今日は一段と寒い。空が澄んでいて毎晩きれいな月が見られる。この時間だとまだ月は低いけど、深夜2時3時に歩いて帰る日には頭の真上にきて足元にくっきり影ができるほど明るい。

寒い夜、真夜中、明るい月に照らされて歩いている。しかも状況は非常に切羽つまっていて半日先の見通しもたたない。ちょっと、まっすぐ歩けてないよ。
初めての経験じゃない。なんか同じような場面が以前あったな。舞台はもう少し手が込んでいて、旅先で、そこは島で、馬がいた。

4月、春休みの終わりかけに青春18きっぷ2枚を人からもらった。きっぷの期限が迫っていて、なかば投げやりに、行き先を島根県隠岐島にした。高さ300メートルの絶壁が日本海の荒波のなかにソソリ立っている。なのに上はのどかな牧場で、牛や馬が草を食っている。そんなイメージで紹介しているウェブページを見つけた。安上がりだがオオ!という感激は保証してくれそうだ。

(略)絶壁の一番高いところの展望所というか東屋(あずまや)に泊まることにした。近くに日本軍の砲台跡がある。さえぎるものもなく海を見張るには絶好の場所だ。そして風も強い。
夜は寒かった。寝袋をかぶっても寝れそうにない。そこらを走って体を暖めることにする。小屋のくらがりに慣れた目で外に出ると、強烈な月明かりでSFの登場シーンのように全てが白く見える。

100メートル四方くらいが平坦になっていて、そこをグルグル走りまわる。海も照らされて明るかったはずだけど思い出せない。広場のまん中には馬がいた。じっと立ち尽くしていて近くを走っても何の反応もない。馬は立ったまま寝ると後で聞いた。それは異様な光景で、絶壁と月と馬はお互いぶつかりあって動けない、ように見える。時間が止まっている。そこを走る僕も平静ではいられない。走ってハァハァいってるのか、興奮してか楽しくてハァハァいって走り出したのか、よくわからない。

息があがり、馬が向いている方に少し離れて座る。頭が冴えてしまって考えが、主に問題点が湧き上がってくる。この春は所得単位0で第2学年に復学(実質復学)するという意義深い春であった。ここへ来たのも何かの卒業旅行を兼ねている。

風の強い頂上部分にじっと立つ馬は、競走馬のように姿は良くないけど、白く輝いて神々しく見える。俗世の悩みも聞いてくれる気がした。多分しゃべるんじゃないかと思っていた。低い良い声で。
体が冷えてしまうまで座っていた。座って、心で馬に語りかける。町から5キロ離れて人気は無く、考えたことをブツブツ口にしてたと思う。オチをつけたい訳じゃないけど、大半はくだらない悩みだ。当時はそれが緊急の課題だった。

「いちおう大学生なんだけど、単位って取ったことないんだよ・・」
「成績表には『FX-』以外の文字が入るらしいよ。見たことないけど。」
「たった3回休んだだけでダメらしいよ。オレには無理だよ。なぁ馬・・」
「いまさら体育なんて受けたくないし。誰も知り合い居ないんだよ。」
「『ボクとペア組みませんか?』(卓球)とか情けなくて言えない・・」
「講義時間90分て長いな。ガマンできるかな・・」
「X年で1単位も取れなかったのに、正直なところ残り3年で140も取る自信ない。全くない。」
「なんとか言ってくれ。」と馬の目を見る。
馬はブルルともいわない。ありのままでいい、みたいなことか。今思えば寝てたんだな。

あれから4年弱経つのに進歩しない、と思う。