日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

イン東京・つづき

今日の「イン東京」はひと味ちがった。
僕の担当は会話に少し障害のある人だった。髪をひっぱって、これぐらいでどうだ、耳をひっぱって、耳は出すのか、と(無言で)問いかける。しかし着席と同時にメガネを奪われている僕には、全く表情が見えない(視力0.02)。声と表情が分からず、つつかれたり引っぱられたりしている体験は、普段あまりない。いまだに彼が、聞こえないのか、しゃべれないのか、日本語分からないのか(または、冗談でやってるのか)はっきりしない。

はじめ、店はちゃんとフォローしろよ、とイラ立っている。すぐに隣のスタッフが聞きにきて、伝えてくれる。長さこれくらいモミアゲはここ、カットだけで顔剃り洗髪はなし。担当はもともと熱心な人で、多少ワイルドな手つきながら、あれこれ一生懸命やりはじめた。問題は、その後誰もフォローに来ないこと。彼も途中聞きたいことがあるだろうし、僕も言いたくなる。ヒザの上にばさばさと髪のタバが落ちてくる。ときどき目を細めて鏡をのぞくと、キノコ状のシルエットが浮かんで見える。荒々しいが技術は一流、というオチなのか、期待1に不安は・・9。

イスが倒れはじめる。彼は何か混ぜている。いや違うよ、カットだけだって、と手でバツを作る。ああ、そうかそうか、頭洗うんだったな、とジェスチャーで頭をゴシゴシする。いや、それも無い無い。おい、ぜんぜん伝わってないぞ、隣のやつ。他のスタッフたちは、義務は果たした、と関係なさそうな顔をしている。でも彼が悪い奴じゃないことは分かった。
急に、いまの状況が面白くなってくる。手入れが面倒だからボウズにするような自分が、髪型の行方を気にするなんてカロリーの無駄だった。僕は見えない。彼は(たぶん)聞こえない。頭のまわりを刃物が飛びまわる。その、剃刀の先っぽでコリコリするのは止めてくれ。

髪の毛を払い落としたあと、手鏡で後ろのほうを映してくれる。どうせ取り返しがつくものでもないし、それで良いです良いです。頭部にどんな事件が起きていようと、千いくらでこんなドキドキが味わえるなら安い。こういう、何が出るか分からない楽しみは、オサレ好きの人も同じかもな。

満足して車に乗り込み、改めてミラーを見ると、けっこう良い感じに仕上がっていた、というオチでした。(かなり低い合格ラインだけど)