日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

東北旅行・月山越え(未完)

これで最後なので日記も引っ張ることにする。気持ちを決めて走りはじめて、50メートル行かないうちに次々に道が分かれる。本線だと思って走っていた道は、山に入ると所々で木の根がアスファルトを持ち上げている、狭い林道になってしまった。のこり3本をたどってみて、最後に選んだのが「現役の」国道112号線だった。新道に合流するまでの2時間半、果てしなく感じたのに2時間か、渓流の釣り人の車と湯殿山温泉に向かう車の計2台とすれちがっただけ。暗く寂しい道が続く。

集落を抜けて急勾配を登っていくと、スピードは歩くのと変わらない。タイヤの音も風の音も消えて、自分の呼吸だけが聞こえる。道は一本道で、狭いけど整備されている。何も考えることは無くて、川を上る鮭のように、ひたすら重力に逆らう方向へ進む。頭に浮かんでくるのは自転車のこと。坂ではギヤの調節と体のバランスをとる技術が大事になる。傾斜と体重のサインだかコサインと、ぼくの気力体力疲労度サドルが当たる部位の痛み、などの間をギヤ比がつないでいる。合うと本当にラクで、合ったところが時速2キロかもしれない、バランスも大事だ。体がブレないように無表情で規則正しく足を回す。まれにバランスもピタリと揃ったときには、体半分が機械化されたように感じる。

ギヤ遊びにも飽きるが坂は終わらない。瞑想(妄想?)モードに入る。最初の坂を登りきったところで視界が開けたが、暗い山が連なるばかりで里の灯りも見えない。世界に自分独り残されたと、想像することもできる。もしそうなら、妄想中に出てきて退屈をまぎらしてくれる人々には感謝しないといけない。

同じような景色の中、ペダルをグルグル単調な動きを続けていると、少しづつ気持ちが病んでくるのが分かる。思い込みが激しい。この坂を登ったところが最高点の「大越」に違いない。まだ40分しか登ってない、峠なわけがない。情報が少なすぎるせいか。よく言われる「遭難一歩手前の状態」である。でも、そうでも思わないとやってられない、ということもある。あとさらに500メートル登ります、なんて考えると体が動かなくなる。スキあらば怠けようとする僕の体を、上手に言いくるめて働かせている。

ダミーとは知らず小さな峠で自転車を停める。例のトマトを口に入れ、吐き出し、下りに備えて長ソデに着替え、ヘッドランプを着けた。しばらく下って少し登る。繰り返すうちに登る割合が多くなって、結局つぎの峠を目指すことになる。思い込みをリセットする。


こんな感じ。長いトンネルと長い橋を作る技術というのは、目立たないけど生活を一変させる力があると思った。リンクのトンネルマニアによると月山第一トンネルは全長2620メートル。時速60キロなら3分で通り抜ける。ここは雪国だから、とくに冬場の距離感が違うだろう。ところで、恵那山トンネルの総工費は891億円で、1メートル掘るのに1千万円かかったことになる。マニアは、ナトリウムランプに感動するらしい。

月山越えは、もう少し若ければ人生観変わりそうな体験だった。恐怖に近い空しさ。兄がもういない事を納得できた瞬間もあった。その経緯を書くのはむずかしくて、モチベーションも尽きました。体が冷え切って意識が薄れ始めたころ「水沢温泉」の看板を見つけた。蛍の光が流れるなか「10分で出ますから!」と風呂に飛び込む。電話に出てくれたイワイ君ありがとう。