突然ですが富士山(5)
詳しいことは忘れたけど、登山の途中から「持っていった杖に焼印を押さなければならない」感じになっていた。砂走りルートにしたのも、数少ない開いている山小屋に行くためだったような。
遭難しかけたあとはなだらかなハイキングコースで、山頂を目指さない散策の人たちも多くなる。あいさつの声も出ないほど疲れはてた。関節が熱を持って頭ものぼせたようになってる。体を引きずって山小屋に着き『焼印押します』を確認して店主に頼む。あっさり却下。「だめだめ。売ってる六角の杖じゃなきゃ押せないよ」
海で拾ったけど体になじむ良い杖だった。何万人の客を相手する富士山の山小屋は客を選ぶんだ。疲れに加えてガックリするけど引き下がらない。「焼印を押さないと帰れない」もうろう状態で、頭の中はそれだけだった。店内に座って水を飲みながら、焼印のためにルートを変えてガスのなか苦労してたどり着いたことを切々と話す。
根負けした店主が「曲がってるから押しにくいんだよねー」と言いながらも焼印押してくれた。
以上で昔話は終わりです。ありがとうございました。