日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

突然ですが富士山(4)

お鉢を回ると反対側に「逆さ富士」が見えた。雲は晴れ、山々が見渡せる。ご来光は良かったけど、「いつでも見られる」絶景の一番は「大沢崩れ」を見下ろすところだと思う。3,700メートルの眺めは、スケール大きすぎて、じつは飛行機の景色のように遠近感がなく単調になる。風化して山が崩れ、大きな岩がふもとまで重なり合っている。「落ちたら痛い」高さは実感できるけど高度数千メートルは実感できない。人の実感を超えたものを、無理やり頭にねじ込まれるようでクラクラする。来てよかったなあ、とだいたい終わったつもりでいたけど、これからが一番大変だった。

「砂走り」を駆け下りる。一歩で4メートル進むという砂の急斜面を埋まりながら滑り落ちていく。だいぶ降りてから「右折し忘れた」ことに気づく。振りかえると来た道は砂の山。戻れる気がしない。このまま降りても間違いじゃないけど別の登山口に降りて車が困る。もうイレギュラーに対応する気力も体力もない。

地図では右の砂の尾根を越えると元の道だ。数百メートルていど。ならば・・、ここから危険な領域に入っていく。砂走りを駆けおりて疲れていた。ザックを置いて偵察に出る。真横に歩いて、見通しが立ったら足あとをたどって戻ろう。50メートルも歩かないうちにガスが出てきた。焦って地図を開く。早く位置を確認せねば。なだらかな「砂丘」ばかりで目印にとぼしい。

これはなんだ。「直線」の地図記号がある。山小屋への送電線のように見える。見渡すと目指す方向に何か黒い影が見える。どんどん濃くなるガスのなか。つまり電線を通す鉄塔じゃないか。よし順調!さらに50メートル。鉄塔は見えない。すっかりガスに囲まれた。そんなはずはない。じっと「あるべき方角」を見つめていると・・見えた。ガスの隙間に影が見える。・・また消えた。??いやな予感がする。

またじっと目をこらす。見えてくる。小さいけど、見つめるほどにディテールが出てくる。子供が描いたような高圧鉄塔の粗い骨組みが見えてくる。ためしに目をそらして、もう一度見ると消えている。そしてだんだん「見えてくる」また幻覚かよ。今度は笑えない。

立ち止まっているうちに砂走りで汗をかいた体が冷えている。普通の冷え方じゃない。濃い霧の水滴が体に張り付いて、急激に体温と体力を奪っていく。半袖シャツで行動している。すぐにでも上着を着なければならない。・・上着はザックの中。

山の悪意を感じた。あんまりナメているので、昨日は遊んでやったけど今日は生かしておけないな。自分の足あとだけだと思っていた砂の斜面には、他の登山者の無数の足あとがあった。来るときは晴れていたので油断していた。いまは10メートル先も見えない。ただルートに戻るだけじゃなく「ザックの位置」に点で戻らなければならない。

砂走りのルートには戻った。ザックはない。登るのか下るのかはっきりしないけど、やみくもに歩くと重力で下に降りてるはずだから登ろう。砂に埋まりながら必死で登って、ザックにたどり着いた。本当に、着いた瞬間からガスが晴れはじめた。晴れると何てことない砂の斜面で、少し登ると正しいルートへの標柱があった。はっきりと「山の神様」の意思を感じた。