日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

突然ですが富士山(2)

Aくんの言うとおり22時に登りはじめる。9月に入っていたので、ほとんどの山小屋は閉まっていて登山客も少ない。

7合目あたりで、ずっと下の方から話し声が聞こえる。おそらく地元の高校生の男女で学校の先生の噂話なんかが聞こえてくる。

それまで前後に誰もいなくて、自分なりにいいペースで登っていると思っていた。高校生たちは下校途中のようにしゃべりながら、たまに爆笑しながらどんどん近づいて、あっさり追い越していった。ふつうのスニーカーを履いていた。

こちらは「2回吐いて2回吸う。一定のペースと歩幅で・・ぶつぶつ」と必死なのに高校生は強い。そんな靴で、山を甘く見ちゃいかんとかペース配分が大事なんだよとか。負け惜しみが頭に浮かぶ。

「なんか黒い雲がこっちくるね。雨降るかもね」遠くで何か言っている。カメラのフラッシュが見えて、記念写真撮ってるなと思ったら、なんと下山しはじめた。もう8合目なのに止めるの?雨とか、ほとんど雲なんかないじゃん。もうちょっと頑張ろうよ・・

8合目を過ぎると雨がパラつき始め、30分ほど歩くと土砂降りと横なぐりの風が吹きはじめた。標高3,300メートルにて午前1時の暗闇は怖い。それにあいつら何者なんだ。甘く見ていたのはぼくの方で、雨具は上着しか持ってきていない。体が冷え切ってくる。急いで降りないといけないけど、こけても終わりな気がする。

8合目の山小屋群のドアを開けて回ると唯一救護所が開放してあった。朝までしのぐことにする。ご来光を見るためだけの強引な計画なので寝る装備は持ってない。ズボンを絞るとジャージャー水が流れる。親父にもらったラクダシャツに足をつっこみザックに足をつっこみ三角座りで震えながら朝を待つ。

暗闇からガラスに雨が叩きつけられる窓に背を向けて、入口のドアを見つめていた。

ドアノブが回って誰かが入ってくる「感じがした」。ゼミのナカダさんだ。なんでこんな所に?でも来てくれて心強いね。

「あらきさん。セルフうどん食いにいかんけ?」なつかしい富山弁。

「おぉ」と答えたのが自分で確かに聞こえた。立ち上がってドアノブに手をかける。あれ?順番がちがうような。ドアは開いたんだよな。

そういえばここは富士山8合目3,200メートル。ナカダさんがいる可能性は少ない。現実に帰って、また雨の音が聞こえる。