日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

信州松代ツアー

中央線で

乗り換え検索をしたら松代駅に19時半に着くという。中津川での乗り換え時間はたった2分だった。でも、そこまで覚えてない。中津川で降りて特急が止まるホームを探す。掲示はなく改札で聞くことにする。駅員に先に話しかけた乗客が忘れ物についての詳細を話し始めた。待っていると遠くのホームに列車が入ってくる。今降りた列車に隠れて行き先のプレートが見えない。列車の窓越しに確認しようと歩き始めると列車も動き、よく見えた。長野、指定。乗り過ごした。次のは1時間半後だ。

時刻表に合わせて動くのは本当に苦手だ。松本乗り換えの鈍行に乗る。夕食のラーメンをはさんで松代についたのは21時すぎだった。

長野市松代町

松代について簡単に書く。有名な真田家の領地。「家を残すため」家族を敵対陣営双方に入れて小さな家を明治まで守り抜いた。幕末には学者・佐久間象山が出る。戦時中は松代大本営の予定地でもある。今もほとんどが非公開の巨大な地下施設が残り「負の」世界遺産として登録活動中だ。60年代には群発地震震源地として。有感地震が一日200回あった(無感ふくめると6000回)。町を見下ろす皆神山は特異な形と震源が直下にあることから、世界最大のピラミッドでありUFOの発進基地としてカルトな人気がある。そして、この町は母の実家がある。

時刻表に苦しめられ、今は宿がない。候補はある。安く泊まれる健康ランドを調べておいた。安いビジネスホテルもあるようだ。夜は物が溶けあう時間だと思う。光の濃淡がなく境目が薄らいで、あらゆるものが入り込んでくる。怖いのも夜だけど、油断すると異質なものを何でも取り込んでしまう怖さなんだと思う。日常は家にいればいい。たまの旅では夜の時間が貴重だ。せっかく遠い魅力ある土地に来たんだ。サウナと泡風呂じゃ台無しになる。

上の写真で場違いなところにある600メートルの山が皆神山で、子供の頃から気になって気になってしょうがなかった。上には何があるのか。何が見えるのか。せっかくだから登ってみよう。

駅から約2キロ歩く。ふもとは畑になっている。月もなく登り口は分からない。古い寺で休む。もう22時を過ぎた。これからどうしようか考えている。古い古い寺で隣の小屋の屋根は抜け落ちている。本堂の瓦も落ちかけている。参拝する人も少ないんだろう。境内は草が伸び放題、だけど長野の春だ、柔らかい草が土を隠して庭のようだ。暗闇を歩くとしだれ桜の枝が顔にあたる。花か葉か、枝に付くものの判別はつかない。疲れたので寺のひさしの下で寝ることにする。

朝方の気温は6℃だった。薄い寝袋はあまり役に立たない。ザックに足を突っ込んでいたが止めて、背中にマット代わりに挟むと少し寝れた。人気のない古寺は怖い。ばあちゃんの住む町だから守ってくれるだろう。

日が昇り目が覚め、体温を上げるため境内を走る。しだれ桜に向かって用を足していると正面から人が来た。気まずいが尿道を締め中断し声をかける。畑に向かう途中お参りに寄ったそうだ。歴史ある寺だが檀家が少なく建物を修繕できない。

山頂は桜が満開だった。下界と季節が数週間ずれている。寂れたゴルフ場がある。つまり山頂は平たくなっている。花がたくさん咲いていた。鳥が鳴いていた。鹿もいた。寒さで苦しんだ後には極楽の図だった。山を下りるがまだ時間は早い。松代には湯質のいい温泉もある。おなじみの松代温泉は掃除中で代わりに紹介してもらった老舗「加賀井温泉 一陽館」へ。

加賀井温泉

木の箱に300円を投げ入れて勝手に入る。一応声をかけると主人が出てきた。「ここは初めてか」うなずくと建物のうらに連れて行き、なにやらすごい音をたてるコンクリの箱のふたをとれ、という。中は井戸から毎分150リットル自噴する温泉が最初にたまるところ。泡と蒸気のなかに顔を突っ込めと言われ、足りないのか首を持ってさらに奥へ。鼻が痛くて涙目になのは炭酸ガスのせいだそうだ。この荒荒しいおっさんは新参者の台頭に負けず歴史ある湯治湯を守ることに誇りがある。語録。

  • ここは観光で来るとこじゃない。常連さんはみな湯治に来るんだ。
  • 溶けてるのは炭酸ガス、鉄、カルシウム。家庭の入浴剤150袋入れたくらいの濃度だ。効用は打ち身、ネンザ、間接痛、リウマチ、神経痛、皮膚病、胃腸病、婦人病・・・
  • 急に湯量が増えたことがあって地震観測所に連絡した。それが群発地震の始まりだった。
  • 地震の後、止まっていた井戸が復活して毎分100リットル出てる。温度が低いので2時間でも浸かっていられる。夏でも汗かかない。
  • 俳句「い いつまでも 自噴続けよ 一陽館」
  • 俳句「ろ 老人の 強き味方の 一陽館」
  • 俳句「は はるばると 神湯尋ねて 一陽館」
  • 俳句「に 賑々し 女性お喋り 一陽館」
  • 俳句「ほ 惚れてます 天下の名湯 一陽館」
  • 俳句「へ 平和なり 政治談義の 露天風呂 一陽館」
  • 俳句「と 時々は 民謡も出る 女風呂  一陽館」
  • 途中から俳句の形式が変わってるのは気のせいか

主人の人間を変えてしまうほどの湯の魅力と取ってほしい。湯質がとてもいい。成分が濃すぎて結晶物が湯船を年々狭くしている。タイル張りの床が土間になっている。混浴露天風呂で常連さんたちが世間話をする。みな朝一番から1,2時間浸かっていく。

すばらしいのは成分と湯温がマッチしていること。近くの温泉は成分はにているが熱いのですぐ疲れる。湯あたりというのか。濃い上に熱いので刺激が強すぎ。一番ぬるい浴槽は30℃少ししかないのでいくらでも浸かっていられる。おでんみたいによく染み込む。ただ熱ければいいのではなくて成分にあった温度、浴槽の深さがあると思う。社協が温泉を併設したり、空港に作ったりする。檜風呂にしたり意味もなくプール作ったりする。でも温泉本来の力を生かすサービスは、汚くても古くてもこの温泉にある。みながゆっくり話すには混浴がいい。女性はTシャツ着てた。

じつは

今回の旅はばあちゃんが具合悪いと聞いて見舞いに来た。急な外泊なのでとっさに寝袋をザックに入れた。住んだことはないが自分のルーツでもある。遊びに来たように見えるけど。寒さで目が覚めると親や先祖が見ていたものを思ったりした。たいへん言い訳がましいけど。