日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

[食]豚を飼う

台所に下りると、留学生のタインくんが肉を煮ていた。

2バーナーのガスコンロの空いてる方でニンニクを炒める。しばらく黙って料理していると、タインくんが「日本のトリニクはこういうのがいっぱい出ますね」と言ってアクを取りはじめた。

日本の農作物(とくに野菜)は宣伝されるほど質がよくないという話を聞いたことがある。島国の地形のせいか土が良くないんだと。せめて肉類は擁護したい思いで「ベトナムの肉はアクが出ないの?」と聞き返した。その答えは、他のヒトにはつまらなくても、ぼくの潜在意識にある願望をくすぐってくれる。面白かった。見た目悪い自作メニューも味が良くなった気がする。

彼の国の肉屋にならぶブタや鶏は、その日の朝に「おとした」ものだけなので新鮮で味が良いらしい。「水で煮ただけでおいしいスープになる。甘い味がする。麺を入れるとサイコーです」豚も甘いスープになる。日本語はじゅうぶん上手なんだけど、とくに食べ物のおいしさを「(素材の味で)甘い」と表現すると、日本人がみなグッと来るのを知ってるんだろうか。アクも出ない透きとおったスープに天然塩を少しかけて、ちぢれたような細い麺が入る。うまそうだ。

彼らも味を極めるためそうするのではなくて、日本ほど冷凍輸送とか流通の技術が進んでないのと熱帯の暑さとか理由があるんだろう。ここ10年くらいで生活スタイルが変わった(豊かになった)というから、流通そのものの規模がまだ小さいのか。家畜を飼ってる農家が朝おとした豚なんかを近くの市場に運んで現金に換える。日本の場合、技術は進んでいて地球のどこからでも冷凍したまま運んでくることができる。でも、それは島国の不利な食糧事情を技術がどうにか支えているだけであって質や味とは関係ない。

食品の裏側―みんな大好きな食品添加物

きのう立ち読みした食品添加物についての本。産業廃棄物(クズ肉)から子供に大人気のミートボールを作りだす過程は呪術めいてて圧巻だ。作者の阿部さんは、好きなように食品を作り変えられる(自身の)技術に怖さを感じる。食品が「短期的に」安全で(腐ってない)安いことも大事だけど、長い目で見たとき本当に安全なのか、実は体壊して治療のため高くついていることもあるだろう。べつに技術が悪いと言いたいのじゃなくて(添加物は確かに生活を豊かにしてる)先のこと考えて技術による操作の自由度をコントロールする役目がいつも不在な気がしてる。

(添加物については買うほうが悪い、と反省も込めて思う。スーパーがどんどん値下げしていくのに食品工場の人に使うなとは言えない)

で本題は豚のはなし。タインくんの実家では最近まで豚を飼っていた。子豚を買って来て育てる。子豚は成長が早いオスがいい。ツガイで買って来て増やせば、と聞いたら、メスを育てるのは時間がかかって大変なので(養豚専業でもないと)できない。オスが十分太るまでの期間はたったの6ヶ月だ。「太り体質」の豚くんは半年で100キロを越すという。何年もかけて育てるイメージだったから意外だった。

飼育スペースも小さくて構わない。寝られればいい。それでちゃんと育ってくれるんだから立派な家畜っぷりだ。何かの本で「何万といる大型動物のなかで家畜として利用できるのは11種類だけで、いくつもの条件が奇跡的に揃った自然からヒトへの贈り物」と書かれていた。豚はその中でもエリート家畜だろう(エリート家畜って新鮮なひびきだ)。

狭いオリに閉じ込めるよりは自然の中で運動させたほうが味が良くなる。もちろんタインくんも実践しているが、やり方が面白い。子豚を裏山にでも放して半年間ほっとくらしい。そして時期が来ると、ひたすら探しまわって捕まえる。あまり遠くへは行かないし誰の豚なのか間違えることもないそうだ。野生化した豚を捕まえるのは大変みたい。