日記など 2002年から

福祉の話題が多いです。東京都の西部・多摩地区が行動範囲です。

御岳登山記(1)

嬉しくない理由で急に3日間予定が無くなった。それで気分転換に山に行くことにした。

山のことは以前から頭にあった。去年の東北旅行では自転車から手ごろで「うまそう」な山を見上げながらも、カカトの痛み(ミゾに落ちた)がひどく断念した。下界は蒸し暑く、動物も植物も生命力が旺盛だ。川沿いの道にせり出した枝や草が車をガリガリと削るし、歩くといつの間にか雑草が胸まで伸びて、よけて歩けばクモの巣にかかり、止まると蚊の集中攻撃を受ける。台所の食品はすぐ腐り、それを捨てたゴミ箱を太った野良猫がひっくり返し、風呂では食後のゴキブリがのろのろ歩いているのを洗面器の裏で叩きつぶす。高いところへ行けば、空気はきれいで蚊もいないし、植物はつつましく岩陰で小さな花を咲かせているだろう。

すぐ思いついたのが御岳(おんたけ)と北アルプス槍ヶ岳だ。御岳は豊田市から見える最も遠い山で(100km以上ある)、何年か前に平成記念橋から白くそびえる山を見つけ方角から名前を調べた。槍ヶ岳は友達や親父が登っていたので単純にミーハーに。どちらも歴史があって観光化されており、初心者にも優しいだろうと安易に考えた。

地図を探しに向かった書店で「北アルプスの山歩き」という本を見つけ、槍ヶ岳のページをたぐった。シリアスな登山家たちを魅了しつづける名山を、富士山(の、ふもとの宝永山)で遭難しかけた初心者に登れるわけがないと諦めつつも、あんがい険しいのは先っぽの尖がったところだけで、そこまでの道中は整備されてハイキング気分というのもありえる。しかし、文中のおそらく「ハイキング中」の一枚の写真では、2人の重装備の登山者が両手を広げて絶壁にペタッと張り付いている。ロッククライミングをしている訳ではなくて、肩幅より狭いような道を前を向いて歩くことすらできないということ。手を振ってハイキング気分で歩けば、ザックが岩に引っかかってバランスを崩し落下、5秒間は飛べる高さだ。ただ水平に移動するだけでコレなら、その先が思いやられる。とても手を出せないと思った。回りくどい説明だけど。

かわって御岳のガイドには、7号目まで上がる車道にロープウェイ、夏には山頂からの御来光をめざして夜間登山の行列ができる。道もいい。これなら何とかなりそうだ。なにより盛りだくさんの山だ。大きな火口が4つ重なりあった頂上部は、槍ヶ岳のように360度下界を見渡すことはできないが、3000メートルの高度と外輪山によって下界から切り離された別世界となっている。それぞれの火口は底に真っ青な水を溜め、また雪解け水が川になって湿地のお花畑を流れる。(あるいは底なし沼となる※後述)槍ヶ岳のことは忘れた。

御岳のふもと王滝町の狭いトンネル


昼前に思いたって夕方には出発した。御岳スキー場から少し上がった「田の原登山口」に着いたのは夜9時すぎだった。170キロ、中津川で1時間寝て計5時間。車中泊して、早朝登りはじめれば十分ゆとりがある。しかし、眠れない。高いところに来るとよくこうなる。風もなく全くの無音、高度2300mの薄い空気は音を少し吸収するのかも(気のせい)。快眠の条件がそろってるのに、下界での深夜でもうるさい住環境に馴らされた体が適応できない。毛布の中で、携帯の天気予報をもう一度確認する。明日は雨、あさっては曇りのち晴れ。雨でも慎重に山頂まで登り、一泊して天気が回復するあさっては時間をかけて山頂部をめぐることにしよう。

駐車場のトイレには自動ドアがついていて、少々過敏なセンサーがカチカチと不規則に音を出す。それを聞いて妙に落ち着くのは、人の気配を感じるからと言えば感傷的で良いけど「ノイズに馴らされてるから」の方が近い。