東北旅行・バンジーと愉快な仲間たち
月山のふもと朝日村のアマゾン資料館に着くと午後4時半になっていた。谷間の道なのでもう薄暗くなってきている。道が見えるのはあと2時間と少しか。
TVで知ってるかぎりでは前置きが長いんだよな。スタッフがバンジーの歴史を紹介してくれたり、ジャンプのさい盛り上げてくれたり、または僕がジャンプ台で怖気て泣いたり漏らしたり壊れて笑い出したり、そんなオプションを全部外してもらって、ピュッと飛んでさっさと出発したい。
谷にかけられた吊り橋のところに受付のテントがある。ぜんぜん気分が盛り上がらない。ツカツカと早足の歩き方も表情も、遅刻しそうなのに財布を忘れて取りに帰るときのものだ。遊びに来たんじゃない(?)、5分で済ませてくれ。
10メートル手前で料金表が見えると、向きを変えてとなりの売店に逃げた。一回5,800円もする。やめよう、予想の倍だ。目的を地図の確認に変更する。ただ飛んだ事実だけあればいい。「事務的」な動機でやるのには、もったいない額だ。
壁の地図を見ていると、親切な店員が無料の観光マップをくれた。地図を見ながら考える。僕の希望的観測はほとんど外れてきた。残り今日一日、おそらく良いことはひとつも起きない。山奥で日が沈み、暗闇と寒さと爆走トラックのプレッシャーに耐えるしかない。初バンジーのささやかな達成感でもなければ、気持ちが持たないだろう。
さりげなくテントに近づき「橋の高さはどれくらいですか?」とスタッフに聞いてみる。あとはスタッフを含めた雰囲気で決めよう。ヒモ結んだんで、あとはそこ(飛び込み台)へ行って好きなときに飛んでください、僕ら事務所で待ってますから。ということは無いだろうけど心配だ。僕はひとりで、ギャラリー誰もいないんだから大事なことだ。
事故の責任がどうの、という誓約書にサインして体重を量る。手の甲にマジックで書き写し、飛び込み台まで行って再び量りなおす。調節しだいでは(安全に)水に突っ込ませることもできる。橋のたもとで出張の途中か、スーツのおじさん達がこっちを見ている。ちょっと待っててよ、去らないでよ。JA(ジャンプ・アドバイザー)の指差しチェックが終わり、飛び込み板へ。
つま先を空中に出すよう言われる。ここで取り乱して変な体勢のまま落ちて、ロープとからまったりするのが危ないそうだ。両腕を横に伸ばす。もう抵抗できない姿勢をとらせるわけだ。板の上で海賊に剣でつつかれている人、という状態。
「宙返りはしないで下さい」ってそんな余裕はない。腰抜かしたりせず、ちゃんと飛べてうれしい。猛烈に加速をはじめる。風圧を受けながら、そういえば、と思う。足首を固定したのは知ってるが、ヒモの先がどこに繋がってるか確かめなかった。3、2、1、バンジー!なんて掛け声に乗せられ張り切って飛び出したものの、ひょっとして取り返しのつかないことをしちゃったのでは。
まだ足になにも抵抗がない。すぐに人(スタッフ)を信じるものじゃない。いつも調子のってこうだよ、自分は。まったく、愛想が、尽きる・・。と、2秒あるかないか考えたところで、まっすぐ伸びたゴムが体を引き上げはじめた。この数秒が本当に怖い。あとはビヨーンビヨーンやってるだけ。