ゴキブリ本能寺の変

今日ではなく少し前の話。
ほんの１０秒間くらいの出来事に、その日その時点の自分についてのあらゆる記述（生活環境、精神状態、価値観・・）が圧縮されている。「究極の」日記じゃないかと思って「日記」カテゴリに入れた。

夜９時の台所にて。疲れていて眠かった。
台所は住民が共同で使う。汚れたガスコンロに火をつけ棚からフライパンを取りだす。のこり１０秒。
フライパンにゴキブリが乗っていた。熱帯に行けばもっと大きいものが居るだろうが、少なくとも本州では最大級だろう。５センチはある黒い虫が、フライパンを横断してコンロの縁に落ちた。
疲れていた。
コンロの上をうろつくゴキブリを追い払おうとした。追い払うより、死ねばいい、とも思った。とっさに手を伸ばして誰のか分からないシャモジを掴み、虫を払い落とそうとした。
が、脳からの指令に混乱があった（追い払うVS死ねばいい）ため、垂直に打ちつけてしまう。
真っ白い内臓が自分のほうへ飛び散る。それをよけながらシャモジを上げると、内臓が付着しているのが見えた。
瀕死のゴキブリが動いている。死期を悟った虫は、真直ぐコンロの炎に突進していった。
疲れていた。
何も見なかったことにしたい。
フライパンを離れてタマネギを刻み始める。黒光りする羽の脂に火がついて、激しく燃え上がる映像を振り払うようにタマネギを刻む。
そのときの、腐りかけのアボガド入りトマトソース・スパゲッティは意外とうまかった。